第24話

少し間をおいてから、再び口を開く。


「ありさや梓とたまに電話出来た時は、本当に救われたよ。

 2人が澪の話をしないでいてくれた事にも…。

 気を遣わせてごめんな」


短くなった煙草の火を消し、天井をそっと仰ぐ。


「強がってた部分もあるし、2人に甘えてた部分もある。

 強がっても、何の意味をもたないのにな。

 今更後悔しても、どうしようもないけど…」


美咲の言葉を静かに聞くありさは、切ない表情になる。

梓も梓で、なんて声をかけていいのか解らずにいた。


「結局私はありさから切っ掛けを貰えたから、こうして戻る気になれた。

 後悔…したくなくて。

 あの頃みたいに付き合えるか、付き合えないかを、確かめに来たんだ。

 不安は拭いきれないけど。

 けど…それでも、自分と…澪と向き合わなきゃと思ったから」


ずっと口を閉じていたありさが、そっと口を開く。


「なんか、昔のみさきちに戻ったな。

 イギリスにいた頃のみさきちは、躊躇ったり悩みすぎたりばかりだったけどさ。

 みさきちは真面目すぎるところがあるから、もっとラフにいていいんだよ。

 それにさ、まだ何も始まってないしさ。

 とりあえず焦りなさんな」


優しい顔で、美咲に声を掛ける。


「ねえ、美咲」


「ん?」


「澪に…逢いたい?」


真剣な顔で、梓は美咲に問い掛ける。


「うん…逢いたい。

 澪に逢いに戻ってきたんだしさ」


「そうだよね…」


言い終えると、梓は悲しそうな顔になる。


「梓?」


梓のそんな表情に戸惑ってしまう。


「みさきち、まだ言ってなかったんだけどさ」


ありさも神妙な面持ちになる。


「2人ともどした?」


「…ごめんな、ずっと言い出すタイミングが見つからなくて」


美咲から視線を反らす。


「…澪に何かあったんか?」


黙りこむ2人。


「…もしかして、澪に好きな人でも出来た?」


「そうじゃないんだけどさ」


歯切れの悪い言葉に、美咲も焦りを感じ始める。


「焦らすなよ、さらっと言ってくれないと困るって」


「そうだよな…。

 じゃあ、言うけどさ」


腹を括った顔で、美咲に視線を戻すありさ。



「澪さ、今いないんだよ」

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