第22話

「ふい~、風呂最高だったずえ~」


ありさから借りた部屋着を纏い、軽く汗をかきながら出てきた美咲の鼻が、美味そうな料理の香りをキャッチする。


「うお~っ、本場の日本食~っ!」


「今皿に盛り付けて運ぶから、みさきちは居間で待っちょれ」


「私も手伝うよ?」


「疲れてる奴に、手伝いなんかさせられないって。

 大人しくあたしと梓に任せなさい」


お言葉に甘えて居間に行くと、テレビがついていた。

夕方のニュース番組だ。


「おおう、日本人が日本語でニュースをお伝えしておる」


「当たり前だろ~」


美咲の一言を聞いて、ありさは思わず笑ってしまう。


「向こうじゃ日本の番組は観れなかったの?」


皿を運んできた梓が、美咲に尋ねる。


「観れたんだろうけど、疲れてくたくたで観る気になれんかったなあ。

 たまに動画サイトで、自分の好きな日本の音楽は見聞きしてたけど。

 休みの日は向こうで出来た友達に、強制的に遊びに連れて行かれたし。

 あ、携帯で日本のニュースはなるべく見るようにしてた」


少しでも日本の事を考えないようにしていた頃もある。

そう、忙しさをこじつけて目を背けていた。


「よっしゃ、準備完了!

 みさきち、ビール飲むっしょ?」


「飲む~」


それぞれの右手には、缶ビールが1本ずつ握られている。


「ほんじゃ、みさきちの帰国に乾杯」


「かんぱ~い」


「ありがとな~」


「遠慮せんでいっぱい食え。

 味噌汁と煮物はおかわりあるからさ。

 焼き魚もちゃんと焼けてると思う」


乾杯をして缶ビールを置き、割り箸を受け取り割ると、1番最初に手を付けたのは味噌汁だった。


「うんめ~っ!」


お椀を置いてから、今度はお茶碗を左手に持ち、出されたおかずに手を伸ばす。

焼きたての魚の香ばしさ。

煮物のほのかな甘味。

そしておしんこ。

久々の納豆も堪らない。


「うんめ~っ!」


そんな美咲を見たありさと梓は、顔を見合わせると笑った。


「喜んで貰えてなによりだよ。

 ご飯と味噌汁、おかわりするかい?」


「頼む!」


まるで、食べ盛りな男の子のようだ。

美咲の食いっぷりを見て、『作った甲斐があるなあ』とこっそり思うありさ。

その横顔を、梓は嬉しそうに見ていた。

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