第20話

先程のお土産よりも、更に軽いような。

目を瞑っていても解る、ビニール袋の感触。


「みさきち~、目蓋を開けるぞ~」


「うん、ゆっくりと静かに開けてくれい」


美咲の言葉に従い、ゆっくりと静かに目蓋を開けてみたありさは、視界に飛び込んできたものを見て絶句する。


「う、うおい、みさきち。

 こ、こいつはまじか…!?」


「昔から本気と書いて『まじ』と読むだろ?

 その瞳に映るものは、全てリアルじゃないか」


さも当たり前のように答える美咲の声に、よもや何が真実か解らなくなるありさ。


「みさきちさんや、あたしはこのまま目蓋を閉じた方がいいのではなかろうか」


「ありさよ、現実はいつだってスパイシーでパンキーなものじゃないか。

 その瞳に真実を映し出す事を、恐れてはいけないと私は思うぞ」


ありさの両の掌に乗っているものを見て、梓は涙目になりながら笑いを堪えている。

当の美咲も、なんとか理性を保ちながら、声を笑いで震わせないように頑張っている。


「さあ、ありさ。

 存分にお土産のありがたみを、全身で感じるがよい」


「こんな酸っぱい現実を全身で感じたところで、何のメリットもないじゃねえか」


「悲観的な憶測は良くないぞ」


ありさの掌に乗っているものとは。


「イギリスの空気がたっぷり入ったビニール袋だぞ。

 こんなに嬉しい事はないだろ?」


「まっっっったくもって嬉しくねえわ!

 何だよ、イギリスの空気って!」


「言葉のままの意味だぞ?」


「普通に返答してんじゃねえし!

 ビニール袋の中を吸ってる絵面なんぞ、よろしくない事この上ないではないか!

 こんな儚いお土産、誰が喜ぶんだよぉおおおっ!」


「ありさなら喜んでくれると思ったんだが」


「1ミクロも喜べる筈がねえだろが!

 それと梓!

 さっきから必死に笑いを堪えてんじゃねえし!」


「だって…だっ……ぶふぁっ!!」


先程と同じく、腹を抱えながら笑い転げる梓を見て、美咲も笑い出す。


「折角イギリスの空気をわざわざ日本に運んだのに、喜んでもらえなくて私は悲しいよ」


「泣かないで、ダーリン。

 僕が全身全霊で、その悲しみを癒してあげるね」


「ハニーはいつだって優しいね。

 そんな君に、いつだって心は奪われまくりだよ」


「んが~っ、三文芝居やめろやぁあっ!」

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