第17話

ピンポ~ン


「あ、やべっ、梓が到着しちまった。

 くっそ、こんな事なら鼻眼鏡でも用意しておけば良かったな。

 仕方ない、とりあえず使い古しのストッキングを顔まで被って、みさきちって解らなくしろ!」


「何でわざわざ不審者にならなきゃいけねえんだよ!?

 とにかく、待たせる訳にはいかないから、私が梓を出迎えるぞ」


「せめてこの斜めにスライスしたキュウリを目にくっつけろって!」


「やなこった!

 一昔前に流行ったエステかよ!?」


2人でぎゃ~ぎゃ~騒いでいる間に、梓は玄関の扉のドアノブに手をかける。

回してみると、鍵がかかっていない事に気付く。

扉を少し開けてみると、なにやら居間の方が騒がしい。


はて、聞いた事のある声がする。

そんな事を思いながら、靴を脱いで上がった。

物音を立てないよう、注意しながら歩いて居間へ向かい、覗いてみると。


「……ダーリン?」


梓の声に気付いた美咲が、そちらに振り向く。


「ぶはっ!」


美咲の顔を見るなり、吹き出す梓。


「ちょ、久々の再会なのに、何で顔にキュウリいっぱい付けてんの?

 イギリスでは、それが流行ってるの?」


腹を抱えながら、梓は大声で笑う。


「ハニー、ただいま。

 騒がしくてごめんな。

 ちょっくら、このアホを樹海に埋めてくるから」


「あに物騒な事言ってやがる!」


顔面に付けられたキュウリを外し、それをありさの口の中にぶちこむと、改めて梓と向き合った。


「ハニー、久し振りだね」


美咲が腕を広げると、梓は嬉しそうにその腕の中に収まった。


「久し振りのダーリンの温もりだあ」


熱い抱擁を交わす2人を、しっかりと携帯のカメラで納めるありさ。


「いつこっちに戻ってきたの?」


「今日の昼過ぎだよ。

 バイクを取りに来たついでに、仕方な~くありさの顔も見に来たんだ」


「仕方な~くってなんだよ!?

 あたしと梓に対する温度差、もう少し改善してくんない!?」


「無理」


「即答!?

 あたしにも優しくしろ!

 てか、いつまで抱き合ってんだよ!?」


「ハニー、今夜は2人で同じ夢を見ようか」


「ダーリンの体温を感じながら、同じ夢を見れるなんて素敵だね。

 寝かさないよ」


「それはこっちの台詞さ」


「うおいっ、もういい加減にしろっての!」

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