第16話

そう、会いたかったのは澪やありさや梓だけではない。

自慢の青いボディ、少し太めのマフラーが奏でる、心を熱くする音。

スロットルを捻れば、素敵なエンジン音を聞かせてくれる愛車。


急いで玄関に行き、見慣れた自分の愛車の鍵を手に取ると、転がっていたありさの父親のサンダルを乱雑に履き、外へ飛び出した。

そのままの勢いで、車庫へ向かう。


ありさのバイクの隣に、カバーを掛けられたバイクが。

丁寧にカバーの紐をほどき、一気に捲れば。



「会いたかったぞ~っ!!!」



3年ぶりの愛車は、あの頃と変わらない輝きを放っていた。

まるで、主人の帰りを待ち続けていたかのように。


鍵を差し込み、軽くスロットルを捻れば、懐かしい音が鳴り響く。

聞き慣れた音に、全身の血が騒がない筈がなかった。


「待たせてごめんな。

 また一緒に走ろうな」


嬉しくて嬉しくて、思わず笑顔になる。

それに答えるかのように、耳に心地よいエンジン音を奏でるバイク。


「久々の再会は、感動の再会になったみたいだな」


いつの間にか、ありさが後ろに立っていた。


「たまに走らせたりしてたし、問題はないと思うよ」


「うちの子の面倒、見ててくれてありがとな~」


「おう。

 ほれほれ、家の中に戻るぞ」


ありさに言われ、エンジンをきり、先程と同じようにカバーを掛けて家に戻った。


「いきなり大声出すから、何事かと思ったよ。

 今日は驚かされてばかりだなあ」


楽しそうにありさが笑う。


「そろそろ梓もうちに着くってさ。

 どうせなら、梓の事も驚かしてやろうぜ」


「どうやって驚かすんさ」


「ん~、そだな~。

 押し入れに隠れて、梓が来たら襖を元気よくすぱ~んと開けて、『コングラチュレーション!』って叫ぶとか?」


「何で『おめでとうございます!』って叫ばなきゃいけないんだよ。

 何に対してのおめでとうだよ」


「じゃあ、まだ風呂の水貯めてないから、浴槽に蓋して隠れて梓が来るのを待つとか?」


「待ってる間、私だけ孤独じゃんか!

 めんどいから、普通に出迎えればいいだろ!」

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