第12話

「美咲、どした?」


美月の声で我に返る。


「あ、いや、イギリスでの事を、ちょっと思い出してた」


思い出に浸りすぎていた。


「イギリスが恋しくなったんか?」


「恋しくないと言ったら嘘になるけど…。

 まあでも、暫くは少し寂しく思うだろうな」


紗也の事を思えば胸が痛む。

彼女が傍にいなかったら、自分はどうなっていただろう。

あてどなく流れていく日々に身を任せ、色のない生活を送っていたかもしれない。

紗也には感謝の気持ちしかない。


鞄から煙草を取り出し火をつける。

吸い込んだ煙を吐き出しながら、これからの事を考えてみる。


正直なところを言えば、いくら澪が待っていてくれていると解っていても、やはり会うのは怖い訳で。

もう1度付き合いたいと言ったら、君はどんな顔をするだろう。


君と一緒の未来を夢見ていたけど、その夢をもう1度見る事は許されるのだろうか。

自分の傍にいてくれる事を、望んでもいいのだろうか。

窓の外の景色を見ながら、そんな事を思う。


「浮かない顔してんなあ。

 ここまできて、今更やっぱ帰るとか言い出すなよ~?」


「言わないっての」


自分の帰る場所は、日本にしかないのだから。

君の隣が、自分の帰る場所だと思うから。


とりあえず、澪の事を考えるのは一旦やめにして、ありさや梓の事を考える事にする。

2人に会うのも3年ぶりだ。

久し振りの再会に、2人はどんな反応を見せてくれるのだろう。


予告なしに帰国して、予告なしにありさの家に行って。

ありさの事だ、「うぇえええっ、みさきち何で日本にいるんよ!?」と驚くだろうな。

ありさの驚いた顔を想像したら、ちょっと笑ってしまった。


梓はどうだろう。

普段からクールだから、期待するような反応は見せてくれないかな?

そんな梓の顔を崩せたら、しめたもんだ。


まずは2人に会って、色々話をしたい。

2人の話もたくさん聞きたい。

自分が知ろうとしなかった話も含めて。


車はありさの家に近付いている。

煙草の火を消し、灰皿に捨て、顔を上げるとありさの家が見えてきた。


車を家の前で停めてもらい、鞄を持って車から外に出る。

美月に別れを告げ、ありさの家のドアに立つ。

懐かしさを噛み締めながら、チャイムを鳴らした。

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