第11話

人肌が恋しい時は、数えきれないくらいあった。

寂しくて、恋しくて、君に逢いたくて。

携帯に入っている、君の写真を見れば切なくて。


当たり前のように傍にいてくれた君。

君と離れてから流れた時間の中で、どれくらい君を思い出しただろう。


「美咲?」


暗闇の中、紗也の声がした。


「ん?どした?」


「寝ちゃったのかと思った」


「ああ、ごめんごめん」


紗也が傍にいるのに、君の事が頭に浮かぶ。


「…あたしも眠くなってきたし、そろそろ寝ようか」


「うん、寝よっか」


目蓋を閉じる。


「おやすみ」


「おやすみ、美咲」


程無くして、美咲が寝息を立てた。

紗也も目蓋を閉じてみたものの、なかなか寝付けそうになかった。

目蓋を開く。

体を起こし、手探りで美咲の顔に触れてみる。

熟睡しているのか、触れても何の反応もなかった。


「美咲…」


小さな声で、名前を呼んでみた。

無論、返事はない。


「ずっとずっと大好きだったよ」


独り言。


「貴女に出逢えた事、忘れないから」


独り言は続く。


「最後に迷惑を掛けてごめんね」


手探り、指先が口唇に辿り着く。


「女の子を好きになるのは、美咲が最初で最後だよ」


ゆっくりと顔を、自身の口唇を美咲の口唇を近付けていく。


「大好きだよ、美咲…」


口唇に口唇を重ねた。

こんなにも切ないキスは初めてだ。


涙が溢れた事に気付き、指で拭った。

そして、体勢を直すと、しっかりと美咲に抱き付いて、再び目蓋を閉じた。

愛しい人の体温を感じながら。



美咲が日本へ旅立つ日が訪れた。

住み慣れた寮を後にし、美咲は空港へ向かう前に店に顔を出した。

仲間達と別れの挨拶を済ませる。


「美咲、空港まで送ってくよ」


美咲に声を掛けた川田は、先に店を出た。

最後の挨拶を済ませて、美咲も店の外に出た。


歩き出してすぐに。


「美咲っ!」


振り返ると、紗也が走ってきて、美咲に抱き付いた。

美咲も紗也を抱き締める。


「今までありがとな、紗也」


力強く紗也を抱き締める。


「あたしもありがとう」


体を離し、紗也の顔を見れば、涙で頬が濡れていた。

と、紗也が美咲の両肩を引き寄せたかと思ったら、そのまま口にキスをされた。


「大好きだよ、美咲」


涙に濡れた笑顔で。



「さよなら」

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