第28話

「親になってみて、初めて解る事も多くてさ。

 子供を育てる事、家族の生活を支えていく事。

 そういうの、やっぱり家庭を持ったり、子供を持たなきゃ解らなくて。

 愛情の注ぎ方もそう。

 どうにもこうにも、悪戦苦闘ばっかだったなあ。

 けど、子育てが辛いって思った事はなかった。

 美月やあんたが、大きな病気や怪我をしないで、育ってくれるのが嬉しかった」


『母』の顔をしながら、気持ちを言葉にしている美春を見る。

いつもの美春は、さしずめ『友達』みたいな。


「あたしやパパがいつぽっくり死んじゃうかは解らないし、もしかしたらボケちゃうかもしれない。

 でも、最後の最期の時は、『あ~、いい人生だったな』って思いながら目を閉じたいわ」


いつかは訪れる『永遠の別れ』

遅かれ早かれ、向き合わなくてはならないのは理解している。

でも、それはもっとずっと先であってほしいと願ってしまう。

許されるのならば、1秒でも長く生きてほしいと祈ってしまう。


「は~っ、しみったれた話になっちまったわ。

 セバス、そんな湿っぽい顔なんてしてんじゃねえわよ。

 あたしはまだまだバリバリだし、元気にヲタ活したいのよ。

 今よりババァになったって、変わらずコスしてやるんだから!」


その瞳を見れば、嘘を言ってないのは明白だった。


「…今と変わらず元気でいておくれ」


「望むところよっ!」


力強く拳を作り掲げる美春を見て、美咲は笑った。


「という訳で、新しいビールを持ってきてちょうだいな」


「も、もう飲んじまったのか!?」


「ビールは温くなる前に飲み切る!

 それは我が家の家訓!」


「んな家訓、初めて聞いたぞ!?」


「今考えて、今言ったからね」


漫画のように、頭をガクッと下げた美咲は残っていたビールを飲み干した。


「ビール飽きたから、他の飲みたい」


「よっしゃ、昨日買ったばっかの赤ワインがあるから飲みましょ!

 ほらセバス、用意なさい」


「解っちゃいたけど、やっぱり私がやるんか!?

 ちったあ自分でやれよ!」


「敬愛すべきお母様に向かって、なんという口の利き方かしら!

 罰としてKOFの京のコスをする事を命じるわ!

 あたしは不知〇舞をやるわ!」


「子供の前で過激な衣装のコスはやめろぉっ!」



こうして、美春との賑やかな時間は過ぎていったのだった。

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