瞬きさえ惜しむような、愛しさを抱き締めて

第26話

時は流れて。





澪が会社を辞めてから、2ヶ月が過ぎた。

本日美咲は休日。

久々に休みを貰った美咲は、美春の元を訪れていた。


「あら、あの部屋から出るの?」


「うん。

 ちょっと手狭になってきたから、今より広いところに越そうかって。

 父さんの知り合いの不動産の人に、物件を紹介してもらえたらなって思って」


穏やかな昼下がり。

美咲が作った昼食を食べながら、2人で会話をしている。


「なるほど、そういう事なら早速パパに聞いてみるわ。

 てか、嫁は?」


「澪は友達の結婚式に参加してる」


「なあ~んだ、久々に嫁に逢いたかったのにぃ」


「私じゃご不満かね!?」


「大いにご不満よ!

 新しく作ったコス衣装、着せたいのに!」


「盛大に失礼な!?

 てか、うちの嫁は着せ替え人形じゃないから!」


いつも通りのやり取り。

久々のやり取り。

それが心地よかった。


「嫁、ちゃんと元気にしてる?」


「めっちゃ元気。

 よく食べて、よく寝て、元気いっぱいに仕事してくれてる」


「元気そうで何よりだわ。

 あんたも顔色いいし、ちゃんと生活が出来てるなら安心した。

 まあ、そこまで心配してる訳でもないけど。

 今度嫁も連れて、(絶対)遊びに来なさいね」


「実の娘より、嫁を優遇するってどういうこっちゃ」


「んなもん決まってるじゃない、嫁が可愛いから!!!!」


「…ここに来て間もないけど、もうツッコミを入れる元気もねえ」



昼食を済ませると、美咲はそのまま台所に行き、洗い物を始める。

美春はテーブルを片付けると、台所に向かう。


「明日も休みだし、昼間からお酒様をいただこうかしら」


「ちょ、さらっと何言ってんの」


「天気もいいし、今日も休みだし、飲まずにいられるかってのよ!」


そう言うや、美春は冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、すぐに開けて飲みだした。


「ぷっへえ、昼間のビールは三割増しで美味いぜっ!」


「まじで飲み始めたな!?

 ちっきしょう、狡いぞ!」


「あんたも飲めばいいじゃない」


「飲み始めたら帰れなくなるだろ。

 澪だって帰って来るし、待っててあげたいんだよ」


と、ジーンズの尻ポケットに入れていた、美咲の携帯が震える。



『これから二次会行ってくるね。

 その後、友達の家で飲む事になったから、今日は実家に泊まります。

 お母様によろしくね』



澪から届いたメッセージだった。

携帯を見て固まっていると、美春が美咲の携帯を覗き込む。


「見事にフラれたわね。

 ビール、飲む?」


「…飲む」

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