第21話

ドタバタの飲み会から、数日が経った頃だった。


カランカランと店のドアのベルが鳴り、仕込み用の野菜を切ったり洗っていた美咲は、そちらを見ずに『いらっしゃいませ~』

案内をしようと、美咲の近くで作業をしていたスタッフがドアの方へ向かった。


「店長、あの…」


スタッフの声に顔を上げた美咲は、手を洗ってから声がした方に体を向けた。


「あれ?夏じゃん」


そこにはスタッフと共に、夏が立っていた。


「いらっしゃい」


美咲はスタッフを下げると、夏をカウンターの席に通して座らせた。

先程のスタッフが、水が入ったグラスを持ってきて、夏の前に置いて持ち場に戻っていく。


「今日は1人?

 澪なら今日はバイトだから、美月の方の店だよ?」


「うん、1人。

 澪からここの店の場所を聞いたんだ」


グラスを持ち、水を一口飲んだ夏は、美咲の方を見る。


「どしたん?

 何かあった?」


「いや、その、何て言うか」


グラスをテーブルに置くと、両手の指を弄ぶ。


「…とりあえず、コーヒーでも飲む?」


「うん、お願い」


オーダーを聞いた美咲は、厨房のドリンクコーナーに向かい、ホットコーヒーを2つと、ミルクと砂糖を用意すると、トレーに乗せて席まで運んだ。

夏の前にコーヒーが入ったカップを置き、隣の席に自分のカップを置くと、トレーを隣に置いて座った。

トレーはスタッフが下げてくれた。


「忙しいんじゃない?」


「うんにゃ、この時間は仕込みの時間だけど、そこまで忙しくないから大丈夫」


「そっか、それなら良かった。

 その、今日ここに来たのはさ、この前の事を謝りたくて」


「謝る?」


美咲は首を傾げる。


「ほら、うち結構な勢いで、美咲に対していろんな事をぶつけちゃったから…。

 美咲の事も考えないで、思った事をが~って言っちゃって」


「ああ、その事か~。

 そこまで気にしてないから大丈夫だよ」


笑いながら、美咲はコーヒーを飲む。


「いや、でも傷付ける事ばかり言っちゃったからさ。

 …本当にごめん」


美咲の方を向くと、夏は頭を下げた。


「そんなご丁寧に頭まで下げなくていいって」


美咲は慌てて両手を左右に振る。

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