第17話

「怒ると後ろに阿修羅が見えるし。

 静かに笑いながら怒るし。

 やきもちも焼きまくるし。

 宥めるのがすんげ~大変でさ。

 抓られるとむっちゃ痛…」


「あらあ、み~君。

 痛いのがお望みなら、お望み通りにして差し上げるわよ?」


ハッとして声がした方を見ると、今美咲が言った通り、静かな笑みを浮かべながら、背後に阿修羅を従える澪が立っていた。


「みっ…いだだっだだっだ!

 痛い痛い痛い澪しゃん痛い痛いっ!」


「やきもち焼きまくりでごめんなさいねえ?

 あたしも大人になったし、少しは余裕の1つも持たなきゃ駄目よねえ」


「耳痛い痛い痛い取れちゃうもげる!」


「大丈夫よ、取れちゃったらアロンアルファでくっつけてあげるから」


「いやだぁあああっ!!!!

 ごめんごめん、ごめんなさいっ!!!!!」


誰もが認めるイケメン女子。

背は高く、足もすらりと長い。

甘いマスク、やわらかなたれ目。

やや低い声で囁かれれば、蕩けてしまいそうになる。

そんなパーフェクトなイケメン女子が、冷酷な笑みを浮かべた美女に耳を引っ張られながら懇願している。

夏も優も、何処からツッコミを入れていいのか解らず、只々その光景を見ているしかなかった。


「夏、優、遅れてごめんね」


やっと美咲の耳を解放すると、美咲の隣に座った。

美咲はといえば、涙目で今しがた引っ張られていた耳を摩っている。


「えっ!?

 いや、その、あのお疲れ…様です!

 ご、ごめん、先に飲んじゃってるんだ」


我に返った夏は、見た事のない澪の姿に、軽く恐怖を覚えた。


「澪…様は何を飲まれますか?」


「夏、何で敬語なの?

 あたし、ビール飲みたいな。

 み~君、オーダーよろしくね♪」


「…いえしゅ、まいろーど」


まだ痛む耳を摩りながら、スタッフを呼んでオーダーをした。

澪の分のビールが運ばれてくると、4人で乾杯をする。


「遅くなっちゃってごめんね。

 訂正箇所がぼちぼちあってさ」


「大丈夫よ、美咲と楽しく話してたから」


「美咲が余計な事を話してないといいなって思ってたんだけど、何を話してたんだか」


澪が美咲をちらりと見る。

澪の視線に気付いた美咲は、背筋をビクッとさせると、慌てて視線を反らし、残っていた酒に口を付けた。


「美咲は何も変な事、言ってないから大丈夫だよ。

 高校生の頃の話を聞いたりしてたんだ」


夏は美咲に同情しつつ、口を開いた。

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