第16話

夏は新しいハイボールを注文し、右手で頭の後ろの方を掻く。


「正直なところを言わせてもらえば…。

 やっぱり、うちは同性同士で付き合うのって、どうなんかなって思ってた。

 無論、いい意味でも悪い意味でも…。

 ただ、澪や美咲の話を聞いてると、同性で付き合っても、異性と付き合うのと然程変わりはないんだなって事が解った。

 自分の周りに、その、そういう人がいなかったから、戸惑いは大きかった。

 でも、そうじゃないんだなって」


頼んだハイボールが届くと、一口飲んでみる。


「偏見を持ってないと言えば嘘になる。

 けど、こうして話を聞いて、理解が出来れば、納得出来る事の方が多い、かな。

 上手く言えないんだけどさ。

 うちは澪のこれからが、幸せであってほしい事に変わりはない。

 やっぱり大事な友達だからさ」


夏の話を聞きながら、頷く優。


「知らない事に不安を感じるのは、誰でもあると思う。

 無理に理解を深める必要もないんだから。

 あんたはあんたなりに、理解出来たのであれば儲けもんだと思う。

 澪が極悪非道の人と付き合うって言うなら全力で止めるけど、こんなに優しくて澪を想ってくれる人なら心配ないじゃない」


「うん、そうだね」


先程までの刺々しい雰囲気は、すっかりなくなって穏やかだ。


「お2人の前での澪って、どんな感じだったの?」


「物静かで、優しくて、たまにおっちょこちょいかな。

 笑うと可愛いんだけど、いつも寂しげで。

 憂い帯びているって言葉が似合ってた」


「恋愛の話になると、口数が少なくなった。

 今は沢山笑ってくれるから、それがとにかく嬉しい。

 『こんなにっこり笑うんだ』って思った。

 最近の柔らかい笑顔、今まで見た事なかったもん」


「そっかあ…」


小さく溜め息を吐いた美咲は、前髪をかき上げる。


「怒る事も殆どなかったし、穏やかっちゃ穏やかだったかな」


「え、澪怒るとめっちゃ怖いんだよ?」


「そもそも怒ったところ、見た事ないから想像出来ないかな」


美咲は胸の前で腕を組み、目蓋を閉じる。


「怒るとガ~って文句言うんだ。

 ほんともう、マシンガンみたいに。

 口喧嘩じゃ、勝てる気がしないもん」


興味津々に聞いていた夏と優だったが、ハッとしてから顔を見合わせた。

そんな2人に気付かない美咲は、話を進める。

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