第14話

思いもよらない美咲の言葉に、夏は面食らってしまった。

そういう事を、堂々と言われると思ってなかったからだ。


優は優で驚きはしたものの、ふっと柔らかな笑顔を浮かべた。


「い、いきなり愛を信じろって何!?」


やや顔を赤くしながら、夏が言葉を美咲にぶつける。


「言葉通り、そのままの意味です。

 私はもう、澪を自分の勝手で泣かせたりしない。

 あの笑顔を守りたい。

 前よりもっと笑わせたい。

 ずっと彼女の傍にいたい」


素直な言葉を発する美咲に、迷いはない。




「澪の隣は、私以外ありえませんから。」




そう言った美咲を、夏は格好いいなと思った。

が、ここまで色々言ってしまった手前、それを素直に美咲に言うのは照れくさい。

もとい、言っていいのか解らないが。


「美咲さんの想い、ちゃんと伝わってきました」


それまで黙っていた優が、口を開いた。

穏やかな目で、美咲を見る。


「夏が噛み付くような事を、沢山言ってしまってごめんなさいね。

 この子もこの子なりに、澪の事を心配してたから…。

 今日初めて逢ったばかりなのに、不躾な事を言ってしまいましたね。

 あたしも止めに入れば良かったんだけど、美咲さんや夏の心の中にあった言葉を、吐き出させた方がいいのかなって思って」


美咲と夏の視線が一瞬合うも、ふいっと反らしてしまった。

相手の事が嫌な訳じゃない、それは解っているのだが。


「お互いこんだけ言い合いをしたのもあるし、気まずい感じは拭えないかもだけど、時間が経てば仲良くなれると思いますよ?」


そう言ってにっこり笑う優。

気持ちを見透かされた2人は、罰が悪そうに苦虫を噛む。


「夏、あんたもちょっと突っかかり過ぎたんだから謝んなさいな」


小突かれた夏は、忘れ去られていたハイボールを飲んで気持ちを落ち着かせる。

ジョッキを置き、美咲の方を見ると。


「…その、初対面の人に、噛み付くような事をしてしまってすみません」


言い終わると、すぐに視線を反らす。

恥ずかしさもあるのかなと、優はクスっと笑った。


「いえ、私もムキになってしまったし…。

 売られた喧嘩を買ってしまう癖、なかなか治らなくて。

 いや、喧嘩じゃないか…。

 とにかく、私もごめんなさい」


ペコっと頭を下げた美咲を見て、夏も頭を下げた。


「じゃあ、ベタだけど、仲直りを兼ねて、もっかい乾杯しましょ。

 ほら、2人ともジョッキを持って?」


言われた通り、2人もジョッキを持った。


「改めまして、よろしくお願いします」


「「お願いします」」


ガキ~ンとジョッキを鳴らしたのだった。

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