第13話
ふんわりとした泡が減る前に、美咲はジョッキに口を付けて二口程飲んだ。
口の中に残る苦味を味わうと、改めて視線を夏に向ける。
「色々なお言葉、ありがとうございます」
あくまで冷静に。
怒りに任せてしまえば、投げ掛けられた言葉を上手く理解出来なくなるのは解っている。
「夏さんが澪の事を、とても大切に思っている事が、強く伝わってきました。
勿論、優さんも…。
澪の事を思って下さって、心配して下さってありがとうございます」
ペコリと頭を下げた美咲を見て、夏は少々面食らった。
姿勢を戻した美咲は、真っ直ぐに夏を見る。
「自分が至らなかったから、澪だけではなく、周りの人達にも沢山迷惑を掛けてしまった。
本当に申し訳なく思ってます。
見当違いと言われてしまうかもですが、友達を大事に思ってくれる人が、澪と友達になってくれたのは嬉しいです」
怒りとか、悔しさとか、ないと言えば嘘になる。
けれど、ここでそれらを露にしてしまえば、そこでおしまいだ。
澪の2人との関係に、ヒビが入ってしまう恐れがあるのも重々解っている。
「ご指摘された通り、私は自分勝手です。
自分の都合で、澪を振り回してしまった自覚もあります。
もしかしたら、あのまま澪と再会しないでいた方が良かったと、思わないと言えば嘘になる。
自分の一方的な気持ちで戻ってきて、再会して、またよりを戻して…。
それが果たして2人にとって…澪にとって良かったのかは解らない。
けど…」
刹那、美咲の悲しげな瞳を優は見逃さなかった。
「私は澪が、誰よりも好きだし大切だから」
淀みのない言葉。
真っ直ぐに優と夏の心に届いた。
「待っていた澪に、感謝しきれないくらい感謝しています。
澪を支えてくれていた、親友達にも。
沢山の後押しもあって、2人の仲が元通りになった。
きっとこうして、もう1度やり直せるのって稀だと思ってます…。
だからこそ、余計に大切で愛しく思います」
愁いを浮かべる瞳が、そっと揺れていた。
「私は澪の心を操れる程、言葉巧みな奴じゃない。
ペテン師でもない。
澪が自分の気持ちで私を選んでくれた。
それが全ててあり、答えです」
そこで言葉を切った美咲は、僅かに目蓋を閉じる。
小さく息を吸い込んで吐くと、目蓋を開けた。
「いきなり現れた私を信じてとは言いません。
でも、私の澪に対する想いは嘘じゃない」
2人を見ながら。
「せめて、私の愛だけは信じてほしい」
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