曇りのない想いに、陽が当たる頃

第12話

初めて逢った人に、いい印象を持たれようとは思っていないが、言葉に些かの棘が見えた美咲は1度口を閉じた。

その様子を、夏はそっと伺う。

優はいつもと違う夏に、戸惑いを隠せずにいた。


沈黙を破ったのは夏だった。


「美咲…さんも辛かったと思います。

 辛い想いをしていた澪を支えられなかった歯痒さを、貴女にぶつける事がお門違いなのも解ってます。

 ただ…別れてすぐよりを戻して、それまで通りにしている事に、僅かながら怒りを感じる部分もなくはない…」


美咲は頷かず、夏の言葉に耳を傾ける。


「貴女の都合で澪と別れて、貴女の都合でこっちに戻ってきて、澪と復縁を果たした。

 どれもこれも、貴女の都合で澪を動かしているように思えます。

 言葉巧みに、澪の心を動かしたんじゃないかって」


ハッとした優が、慌てて口を挟む。


「ちょ、ちょっと夏、何失礼な事言っ…」


「優だってそうは思わないの?

 うちはこの人の事、信じてない訳じゃないけど、自分勝手なんじゃないかなって思うよ」


「そ、こまでは思わないけど…」


そう言うと、優は2人から視線を反らした。


「澪が元気になった事、笑ってくれるようになったのは素直に嬉しいです。

 けど、貴女の存在は澪にとって善なのか悪なのかは解りません。

 もしまた貴女がいなくなってしまったら、澪はどうなっちゃうのか…。

 いなくならない保証はない。

 愛だ何だを口にするのは勝手だけど、貴女が少しでも澪の毒になるならば、澪と関わってほしくないと思います」


真剣な眼差しだ。

真っ直ぐな瞳が、少しだけ揺れている事に気付いた美咲は、大きく瞬きをした。


「うちも優も、もうあんな澪を見たくない。

 貴女と澪が付き合うのは自由だけど、今まで澪を支えてきたうちらに、ちょっとは口を挟む権利はあるんじゃないかなって」


そこまで話すと、夏はジョッキに残っていたハイボールをゴクゴクと音を立てながら飲み干した。

見届けた美咲も、残っていたビールを飲み干す。


「あ、あの美咲さん、色々投げ付けてしまってすみません。

 夏もちょっとヒートアップしちゃったみたいで…」


「いえ、大丈夫ですよ」


自分では笑ったつもりだったが、果たして笑えていたか自信は持てなかった。


スタッフを捕まえた美咲は、新しいビールとハイボールを頼んだ。

運ばれたジョッキを受け取り、ハイボールを夏の前に置く。

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