第10話

「えっと、美咲さん…ですよね?」


1人の女性が声を掛けてきた。

茶色く長い髪を、緩く巻いている。

大人っぽい人だなと思った。


もう1人の女性は、ミディアムショート。

耳には大きなリングのピアスをしている。

クールそうな印象だった。

目が合うも、反らされてしまう。


「あ、はい、そうです…。

 澪のお友達さん、ですよね」


「そうです。

 立ちっぱなしですみません、席に着きますね」


先に茶髪の女性が座り、その後にショートの女性が座った。


「すみません、先に飲んでしまって」


「お気になさらないで下さい。

 今日はお仕事だったんですよね?

 お疲れ様です」


ニコリと浮かべた笑みも、何処か大人っぽかった。


「ありがとうございます。

 …あの、澪は?」


「澪はレポートの提出に間違いあって、それの修正に時間がかかってました。

 もう少しで終わるから、先に行っててと言われたので、先に来ました」


「そうでしたか」


幸先が悪いなと思ってしまった自分を、心の中で叱りながら、平常心を保つ事に専念する美咲。


「あ、お飲み物はいかがなさいますか?」


「あたしもビールを。

 夏は?」


「…ハイボール」


初めてショートの女性の声を聞いた。

やや少年のような声だなと、美咲は思った。


「かしこまりました」


美咲が手を挙げると、近くを通ったスタッフがやってきて、注文を取って去った。

程なくして、ビールとハイボールが入ったジョッキを持ってやってきて、テーブルに並べていった。


「澪はいないけど、先に始めちゃいましょうか」


茶髪の女性が言う。

美咲と夏と呼ばれた女性が頷く。


「じゃあ、初めましてに乾杯」


「…そんな乾杯、初めて聞いたよ」


美咲も同じ事を思ったが、口にはしなかった。


「あ、自己紹介がまだでしたね。

 あたしは優、この子は夏です。

 ほら、夏も挨拶しないと」


小突かれた夏は、美咲の方を見る。


「夏です、よろしく」


淡白な自己紹介だった。


「ごめんなさい、この子ちょっと人見知りなんです。

 もう少し慣れたら、肩の力も抜けてくると思うので」


優が夏のフォローを欠かさない。


「私も人見知りなんで、まだ少し硬いかもしれませんが、よろしくです」


当たり障りない笑みを浮かべながら、美咲が答えた。

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