第8話

ディナーの仕込みをしていると、裏口から副店長が入ってきた。

予定よりも早く来た副店長を見た美咲は、驚きながら眉を上げる。


「おはよ。

 今日は珍しく早いね」


「おはようっす。

 今日は近くで買い物してたんで、そのまま来ちゃったんすよ。

 今着替えてきますね」


美咲の2つ上の女性。

以前は劇団員だと聞いた事がある。

当たり障りなく、性格はマイペース。

が、周りの様子をしっかり見てくれるし、先読みを出来る故、美咲のアシストもお手の物。

2人はいいコンビなのだ。


着替えを終えた副店長が戻ってきたから、今日の流れを伝えた。


「わっかりました。

 あ、がぶ飲みワインが赤白両方きれそうなんで、後で発注かけときます。

 他に連絡事項はありますか?」


「うんにゃ、特にないかな。

 副店長来たし、私は早めに上がらせてもらうかな」


「何かご予定でもあるんすか?」


「夜、ちょっくら飲み会があるんだわ。

 余裕もあるし、家に帰ってシャワーを浴びれるかな」


「そうなんすね。

 ほんじゃ、もう上がっちゃって大丈夫っすよ。

 お疲れ様でした」


「すまん、ありがと。

 じゃあ、みんなもお疲れ様」


あちこちからお疲れ様が聞こえてきて、みんなに手を振りながらロッカールームに向かった。


帰宅し、シャワーを浴びてさっぱりしてから一息。

まだもう少し時間があるし、一服するとしよう。


着替えてから換気扇の近くで煙草を吸っていると、黒のスキニーパンツの、後ろのポケットに入れていた携帯が震えた。


『今日は肩の力を抜いていけよ』


ありさからのメッセージだった。

どうやら気に掛けていてくれたようだ。


「ん、解ってる。

 気に掛けてくれてありがとう」


返信すると、すぐに既読が付いた。


『酒も入れば、口も表情も滑らかになるさ。

 ので、ウォッカとかテキーラを飲め☆』


「滑らかどころか、原形すらないじゃねえか。

 てか、泥酔しちまったら話も糞もないだろ!」


『忘れられない印象を与えるのも大事だぞ』


「どんな印象の残し方だよ!?」



暫くありさとメッセージのやり取りをした後、小さく笑った。

煙草の火を消すと、ジャケットと纏い、バッグを持つと家を出た。

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