第6話
夏と優達との食事会の日になった。
本日の天気は晴れだが、風は冷たい。
バイクで走ると、冬の寒さをより一層感じる。
店に着くと、着替えてから早速仕込みに取り掛かる。
次々にやって来るスタッフに指示を出しながら、開店の準備を進めていく。
開店時間になり、店のドアにかかっているプレートをオープンにした。
それから暫くすると、一組、また一組と客が入ってきた。
ランチタイム帯は、すぐに満席になる。
この時間は特に忙しく、目まぐるしい勢いで料理を作らなくてはならない。
冬であっても厨房は真夏のように暑く、流れる汗を拭きながら料理を作り上げていく。
次々にオーダーが入り、言葉通り息つく暇もない。
ピークを過ぎ、漸く落ち着き始め、スタッフに休憩を促す事が出来る。
まかない料理を作ると、美咲は店の外に出て、煙草休憩を取った。
携帯を取り出すと、澪から『夏も優も、凄く楽しみにしてるよ』とメッセージが届いていた。
返信を済ませると、携帯をエプロンのポケットにしまう。
上手く話せるか、些か不安はあるものの、隣に澪がいるなら大丈夫だろうと、自分に言い聞かせる。
元より、そこまで重く考える必要はないのだからと、改めて思い笑った。
食事は飲み会コースを頼んである。
何より美月に任せてるので、特に問題はないだろう。
休憩を終え、店内に戻った。
「美咲さん、今日もまかない美味しかったです」
この春大学生になり、最近入ったばかりの子が話し掛けてきた。
「それなら良かった」
笑顔で返す。
「美咲さんって、いつも格好いいですよね。
女性だけど、すっごく格好良くて。
料理を作ってる姿も素敵だし、ついつい見とれちゃいます」
まだあどけなさが残る笑顔を浮かべながら、言葉を述べていく。
「付き合ってる方はいらっしゃるんですか?」
あ、これは面倒くさいやつかな?
笑顔は崩さないまま、相手の出方や反応を見る事にする。
「いきなりな質問だなあ」
「気になるんですもん。
それで、どうなんですか?」
スタッフも笑顔を崩さない。
「君は付き合ってる人はいるの?」
「今はいないんです~」
声のトーンが、やや甘くなった。
「そっか、いい人が見つかるといいね。
ほれ、そろそろ夜の仕込みを始めないとだよ」
このまま逃げきりたかったのだが。
「美咲さんに付き合ってる人がいるのか、まだ聞いてないんで、聞いたら始めます。
もし付き合ってる人がいないなら、立候補したいんな~って」
今この場に、澪がいなくて良かったと、美咲は心の中で息を吐いた。
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