第87話

洋服はハードルが高い。

(そもそもサイズが解らない)


お酒をあげても、飲んじゃったら終わりだし。

何か使えそうなものがいいよね。


よく『プレゼントは自分が欲しいものをあげるといい』なんて聞くけど、あたしが欲しいのは化粧品とか洋服だからな。

香水も考えたんだけど、やっぱり好みがあるし。

プレゼントをあげるって、案外難しいな。

友達にあげるなら、そこまでハードルは高くない気がする。


あれこれ見ていると、あるものに目がとまった。

近付いて見てみる。

予算オーバーだから買えない。

もう少し安いのはないだろうか。


見ていると、店員さんが声を掛けてくれた。

50代くらいの、人当たりの良さそうなおば様。


「こちらの商品のご購入をお考えですか?」


「あっ、あの、はいっ」


デパートで買い物なんてした事がないから、何だか緊張してしまい、声が上ずってしまった。

そんなあたしを見て、店員さんはくすっと笑った。


「こちらの商品は、他にも種類があるんです。

 大きなものから、やや小ぶりのものまであるんですよ」


商品が並んでいるコーナーに案内され、いろんな種類の商品を紹介された。

その中で、買えそうなものを見つけた。

大きさも丁度いいと思う。

購入する事を告げ、プレゼント用にラッピングをしてもった。


移動に邪魔だから、届けてもらう事にした。

明日到着みたいだから、ありがたい。

用紙に名前やら住所やらを記入し、三越を後にした。


外に出ると、途端に体に冷たさが絡みつく。

とにかく寒い。

東京の寒さとは、全然違う。

突き刺すように痛寒い。


バッグからスマホを取り出すと、森本さんから『10分くらいでそっちに着く』と、5分前にメッセが届いていた。

どこら辺にいればいいだろう。

見渡してみるも、どこもかしこも人だらけ。

良さげなところは、人が集まっているから駄目そうだ。


沢山の人。

人波。

見ているだけなのに、流されそうになる。

溺れてしまいそうになる。


森本さん、早く来ないかな。

早く森本さんに逢いたいな。

急に寂しくなって、不安になる。


隣に誰もいない。

1人で出掛けるのは、嫌いじゃないのに。

何だろう、心が落ち着かない。







ねえ、森本さん。

早くあたしを見つけて…?

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