第86話

クリスマスは、彼氏と過ごすものだと思ってた。

彼氏がいない、初めてのクリスマス。

家族とも、友達とも過ごすでもない。


一緒に過ごさない?と、声を掛けてくれた人もいた。

ありがたい。

けど、丁重にお断りした。


気楽に過ごせる人と過ごそうと思った。

身近な人がいいと思った。

結果、森本さんと過ごそうと思った。


一緒に過ごす時間が、1番多い人。

最初の頃は距離が長くて、何処か淡白で、少々の冷たさも感じた。

仕方がないと思っていたけど、少しずつ森本さんを知っていって。


やっぱり優しい人。

不器用だけど、素直じゃないけど、そこがまた可愛らしい。

大人の人に、可愛らしいは変かな?


当たらず障らず。

近すぎず遠すぎずだったけど、ちょっとだけ距離が近付いたんじゃないかなと思ってる。


最近は、いろんな表情を見せてくれる。

それもまた嬉しい。

不器用に笑うところが、可愛いというか。


自分が知っている大人とは、違う部類の人だなとも思った。

冷静沈着。

あまり取り乱さず、物事を冷静に見る事が出来るというか。

自分にはないものを持っているから、羨ましくも思ったりして。


あたしはまだまだ子供。

大人のふりばかりが得意で、中身は全然幼くて。


大人になるには、どうしたらいいんだろ。

年齢を重ねたからって、大人になるんじゃないって事は最近解った。

虚しい現実だけど、正しい訳で。


あたしはちゃんと、大人への道を歩けてるのかな。

道を外しかけたけど、戻れたのは森本さんのお陰で。



森本さんがいなかったら、今の生活はありえなかった訳で…。



いい子になりたい訳じゃない。

せめて、人様に迷惑をかけない人になりたい。



森本さんみたいな、優しい人になりたいな。



本人に言ったら、きっと凄く嫌な顔をするかな。

『こんな人間を模範にすんな』とか言いそう。

思い浮かべたら、ちょっと笑ってしまった。



いろんな事を考えながら、三越をぷらぷら。

人が多いけど、外の寒さをしのげるからいい。


僅かな貯金を握り締めて店内を物色。

日頃の感謝を込めて、森本さんに何かあげたくて。


何をあげたらいいだろう。

どんなものなら、喜んでくれるだろう。


森本さんの好きなもの、あんまり知らないんだよな。

好きなもの…コーヒー、お酒、ゲーム、寝る事、夜更かし。

…駄目だこりゃ。

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