第85話

彼女はどうして、クリスマスという特別な日を、私なんかと過ごす事を選んだのだろう。

深い意味はないのだろうが、自分的には気になった。

声を掛けてくる人は、沢山いただろうに。


改めて思う。

彼女と私の関係は何だろうと。

『他人』と言うには希薄過ぎるし、知人と言うにはおざなりなような気もする。

…まあ、考えたところで、答えらしい答えなんて出ないんだけど。


彼女と過ごす時間が増えていく。

いろんな彼女を知っていく。

表情や感情も。

私なんかよりも、人間らしいと思うところもある。


自分とは真逆の人物。

私が陰なら、彼女は陽。

あんな風になりたいとは思わないけど、あんな風だったら今とは違う人生だっただろうか。

…今日は一段と、自問自答に忙しい。

いや、自答出来てないけど。



タクシーは相変わらず動かない。

夕方も過ぎたから、渋滞も悪化しているんだろう。

このままでは埒が開かない。


「運転手さん、停まれそうなところで停まってもらっていいですか?」


声を掛けると、運転手はミラーでこちらを見てから振り返る。


「目的の場所まで、まだ結構あるけどいいのかい?」


金額を稼げない事へと不満が、顔にもろに出ていたが、気にしない事にする。


「はい、大丈夫です。

 自分の足で走って向かいますわ」


運転手は適当に返事をする。

信号が変わり、路肩に停めてもらうと、支払いを済ませるとタクシーを出た。


自分の足で走りますなんて格好つけた事を言ったが、なかなか距離があるのは事実。

マラソンランナーじゃないし、持久力なんて毛程もない。


ましてスーツ&パンプスで走るのはしんどい。

…あ、着替えてくんの忘れた。

自分が着てた服、会社に置きっぱなしじゃん。

…ザキがうちに持ってきてくれる事を願おう。


ここからまたタクシーに乗っても、結果は同じで。

徒歩で向かうとなれば、更に30分以上はかかる。

如何にして時短をすべきか考える。


…ああ、伊達バイクがあんじゃん。

お手軽なレンタル電動チャリ。

アプリを立ち上げ、近隣で借りれるチャリはないかと探すと、1台だけ借りられそうだ。

急いで予約をして、チャリがある場所へ向かい、アプリが示すパスコードを入力し、鍵を解除。

とりあえず、会場近くに返却場があるから。そこまで行けばいい。


チャリに跨る。

手袋をしていない為、手が無茶苦茶寒いけど、文句も言ってられない。

寒空の下、元気よくペダルを踏みしめて走り出した。

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