第81話

余計な事は言わず、悟られぬように笑ってやり過ごす。


「話を脱線させてしまってすみません。

 とにかく、作品は神崎さんのお好きなようにして下さい」


「本当によろしいんですか?」


「よろしいですよ。

 売れるとは思ってませんので」


また意地悪な笑みを浮かべる。


「アタシは売れると思いますよ。

 これは賭けですね」


「勝負事に関しては、負けたくないな。

 いいですね、乗りましょう。

 作品は後日お送りしますね」


「いえ、こちらで手配をさせていただきます。

 後でメールで構わないので、ご住所をお送りいただけますか?」


「解りました。

 ほんじゃ、楽しみにしてますね。

 ドロンジョ様に仕えるか、どうか」


「こちらこそ、子分が増える事を願っていますよ」


どちらともなく立ち上がり、どちらともなく手を差し出し、握手をした。


「検討を祈ります」


「それはこちらのセリフですって」






奴の絵が届いて暫くしてから、中規模の展示会が行わる事があると情報が入り、すぐにエントリーをした。

展示中、SNSで奴の絵の評判を探ってみると、なかなかの評判だった。

奴はTwitterのアカウントのみを持っていて、少しずつフォロワーが増えていった。

景色の他にも、漫画のキャラクターを真似たイラストを載せたりしていた。


展示会もそろそろ終盤に差し掛かった頃だった。

運営会社から電話があった。

あの絵を売ってほしいという人がいて、話をしたいと。

アタシは電話で話しながら、大きくガッツポーズをした。


売買の話は無事に成立。

なかなかの値で売られた。

初回にしては、いい手応えだった。


売れた事も嬉しかったけど、奴の絵が誰かの目に止まったのが嬉しかったんだ。

価値あるものだと、奴にも解ってほしかったのもある。


その日の夕方に奴に電話をしたが、仕事中だったのか出なかった。

LINEを教えてもらっていたから、メッセージを送った。


一時間くらいしてからだったか、奴から電話があった。

今会社を出たところだから、仙台駅周辺で飲もうと。

2つ返事をし、仕事を終わらせ、落ち合った。


知ってる店があるからと、そこへ連れてってもらった。

カウンターでビールを頼んで乾杯したら、話が聞こえた店の人が、驚いた顔をして。

お祝いにと刺身と日本酒をご馳走して下さった。

あんなに美味しい刺身と、日本酒は初めてだったな。


そこから、少しずつ奴と関わる事が増えた。

気付いた時には、奴は会社を辞めてフリーになっていた。

ので、マネジメントはこっちでやり、奴に仕事を回す。

それが始まり。


奴がもうちょいで24になる頃で、アタシが28になって間もないの時の話。

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