第80話

「だ、大事な作品をそんなぞんざいに扱ってはいけません!」


はははっと楽しそうに奴は笑った。


「神崎さんにあげるのは、ぞんざいではないでしょ?

 神崎さんが持っててもいいし、何なら展示会に出してもいい。

 どうぞ、お好きなようにして下さい」


「お好きなようにって!

 投げやりすぎますよ」


「私の作品ですもん、お好きなようにしますよ。

 そうだなあ、展示会に出して買い手がついたら、会社を辞めて神崎さんの手下にでもなりますかね。

 神崎さん、ドロンジョ様に似てるって言われません?

 何かこう、手下を従えてそうなイメージ。

 なんて、初対面の人に対して失礼か」


鋼鉄の神崎

鋼の女

どぎつい女

つまんない奴

男を差し置いて仕事をさらってく


いろんな事を言われている。

アタシは男性が少々苦手だ。

学校もずっと女子高。

男性との接し方が解らず、どんだけ苦労したか。


愛想笑いも上手く出来ない。

社内で人気の男性社員に目を付けられ、口説かれまくった時には、男性社員を狙っていた女性社員から意地悪をされまくり。

上司とクライアントと会食に行けば、クライアントの隣に座らされずっとお酌。

しまいにはお持ち帰りされそうになった事もあった。


そんなこんなが多々あり、このままではいけないと思い、仕事だけに精を出す事にした。

勉強も沢山したし、営業の技術も少しずつ覚えた。

男性陣に負けぬよう、周りに何も言われぬよう、がむしゃらに頑張った。


結果、課長になる事が出来た。

妬みは勿論あったが、そんなものを気にする時間もなかった。


変わっていくアタシを見て、周りはいつしか陰で、先程述べた『呼び名』で呼ぶようになっていった。

どうでもいい、興味も糞もなかった。


それにしても、『ドロンジョ様』は初めて言われたもんだから、耐えきれなくなって大きな声で笑ってしまった。


「あっははっ、ドロンジョ様は初めて言われましたよ。

 アタシ、あんなセクシーじゃないし、グラマラスでもないですよ」


「そうですかね?

 キチっとしてて、身なりも綺麗だし、顔も整ってて美人だと思いますよ。

 …何か口説いてるみたいになっちゃいましたね。

 すいません、同性にこんな風に褒められても嬉しくないですよね」


同性に褒められた方が嬉しいとは言わなかった。

アタシは男性に興味はないし。

今も昔も、女性にしか興味がない。

付き合ってきたのも、全員女性だし。

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