第76話

『てか、今何処にいるんだ?』


「仙台駅の東口」


『じゃあ、タクシー拾ってこっち来い。

 料金は立て替えるから、ちゃんと領収書貰ってこいよ。

 くれぐれも宛名のところに、前みたいに『ガチャピン』なんて書くんじゃねえぞ』


「あ~、そんな事もあったわね。

 てか、行くなんて言ってねえぞ」


『クライアントさんなんだから、我慢しろよ。

 今日、予定でもあんのか?

 どうせ、ごろごろする予定があるとか言うんだろうけど』


「私にだって、予定の1つや6つくらいあるわい。

 夕方、お嬢ちゃんと出掛けるんだよ」


私の言葉に、すぐに返事はなかった。


「おいこら、聞いてんのかね?」


『あ?ああ、聞いてるって。

 夕方までには終わるだろうから、とにかく付き合え』


「パーカー、スキニー、スニーカーだが?」


『アタシのジャケット貸すから、それ着ろ。

 ……あ、はい、解りました!

 他の人から電話入ったから切るぞ、じゃあな』


「あっ、ちょ、おいっ!」


電話は一方的に切れてしまった。


折角の休みなのに、何でこんな事に。

めんどくせえ…行きたくない。

仲がいい訳じゃない奴と飯に行ったって、楽しくないし、飯も美味くないのに。


葉の部分が灰になってしまった煙草を捨て、新しい煙草に火をつけた。

LINEを立ち上げ、彼女に今の出来事を綴り送る。


程無くして既読がつき、返事がきた。


『解りました。

 遅くなる?』


遅くなってほしくはない。

話が長引けば、当然遅くはなる。


『何とも言えん。

 出来る限り、早く逃げたいところ。

 17時になっても私からメッセが来なかったら、家を出てページェントの会場近くに行ってくれ。

 どっか入れそうな店があったら、そこで時間を潰してて。

 かなり冷えてるから、寒くない格好をしろよ』


すぐに『了解』のスタンプがきた。


なんかこう、彼女に申し訳なさを感じる。

嫌な想いをさせてしまっただろうか。

…いや、別に約束を破った訳じゃないし、そこまで気にしないで大丈夫…かな?



煙草を吸い終わると、タクシー乗り場に向かい、タクシーに乗り込む。

行き先を告げ、窓の外の景色を眺めた。


街はすっかりクリスマス色。

子供の頃はそれだけで、気持ちが高ぶった。

大人になってからは、年末年始が忙しくてバタバタするという事を知り、溜め息が増えるだけ。

クリスマスに浮かれる事なんて、てんでなかったのに。



さっさと切り上げて逃げよう。

また不貞腐れられたら、面倒だし。


あの笑顔を曇らせるのは、何か嫌だし。

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