第75話

えっちらほっちら、何とかかんとか、仕事はやや早めに無事に終わった。

今年も年末年始を、ゆっくり過ごせる。

頑張った自分、とっても偉い。


伸びた髪を切らないと。

子供の頃は暮れになると、髪を切りに連れて行かれたな。

新年を迎えるから、髪もさっぱりさせないと。

母親がそんな事を言っていた。

大人になってもその習慣が抜けず、という感じ。


いつも行く美容室に電話をしてみたら、クリスマスの朝一なら、キャンセルが出たから空いてるとの事。

早く起きなきゃいけないのは気が引けるが、我儘は言えないから承諾した。



当日。

朝食はコーヒーのみ。

まだぼんやりとする頭に、コーヒーが染み渡る。


ガチャ


彼女の部屋のドアが開いた。

眠そうな目を擦りながら、彼女がこちらにやって来た。


「おはよ」


言いながら、欠伸を1つ。


「おはよう。

 随分眠そうだな」


「うきうきが止まらなくて、なかなか寝れなくて」


遠足の前の日の子供かいな。

そんなに楽しみにしていたのだろうか。


「森本さんは、美容室だっけ?」


「うん。

 昼くらいには帰って来れると思う。

 昼飯は、適当に買ってくるよ」


「うん、解った」


「まだ早いんだし、寝直したらいかがだね?」


「うん……ふぁあ~」


大きな口を開けながら、大きな欠伸。

無防備というか、何というか。


「私は行ってくる。

 戸締まりはしっかりな」


「行ってらっしゃい」


私に手を振る彼女に手を振り、家を出た。

今日は特に寒いな。

風は冷たいというか、痛い。

手袋やらマフラーをしていても、体はひんやりと寒い。

やや速めに歩いて、体を暖める事にした。



髪をさっぱりさせた。

ショートボブにしてもらった。

髪色は淡い栗色。

担当ちゃんにお任せすれば、いつもいい感じに仕上げてくれる。


美容室を出て、近くの喫煙所で一服しながらスマホを弄っていたら、鬼…神崎さんから電話が。


「ご指名ありがとうございます、千鶴で~す」


『随分素晴らしい棒読みだな』


「私が愛想を振り撒けない奴だって知ってるだろ。

 んで、ご用件は?」


『嫌ってくらい知ってらあ。

 ちょっと会社に来れんか?

 クライアントさんが、近くに用があって、帰りに寄るそうだ。

 一緒に食事でもって』


「めんどくせえからお断りしますと、丁重にお断りしといてくれ」


『出来る訳ねえだろ、あほんだら』


何でこんな日に限って。

タイミングが悪いにも程があんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る