第73話

作業を再開させる。

振り回されてたら、進み具合に支障が出る。

出たら休みが危うい。

そんなん、まっぴらごめんだ。


集中しないと。

そうだ、おふざけに付き合ってる場合じゃない。



「ジングルベ~ルジングルベ~ル」



ここはもうちょいこんな感じに。

色味はえ~と。



「ジングルベ~ル、ヘイ!

 ジングルベ~ル、ヘイ!」



もうちょい線を濃くした方がいいか?



「ジングルベル!

 ジングルベル!チェケラ!」



…………。



「ジンジングルグルベ~ルベル!

 ジンジングルグルベ~ルベル!」


「だぁあああああっ、うるっせえわあ!

 トラウマ植え付ける気か、この野郎!」


我慢をするという事は、そこまで出来ないという事はない。

けど、これは耐え難い苦行に等しい。


「あたしの事は気にせず、ど~ぞ思う存分お仕事をなさ…」


「なされる訳ないだろがい!

 頭がおかしくなりかけたわ!」


そんな時に限って。



ヴ~ヴ~ッ



鬼からの電話だ。


「電話に出るから、大人しくしてろよ!?」


「ふんだっ」


ぷいっと顔を背けられたが、気にしている時間もない。


「あいっ、もしもし!」


『随分元気に電話に出るじゃんか』


「ちょっと色々とあったんでな。

 仕事なら問題ないから大丈夫だぞ」


『そうか、それなら安心して年末年始を過ごせそうだな。

 言ってた資料、パソコンに送っておいたから確認してくれ。

 足りなかったら、すぐに連絡しろよ』


「あ~、ありがと……おいっ、無言で踊ってんじゃねえっての!

 さっさと部屋からゲラウェイ!」


彼女は私に背を向けると、のっしのっしと音を立てながら部屋を出ていったのだった。


『アタシは無言で踊ってなんぞいねえぞ?』


「悪ぃ、こっちの話だ。

 全く、何だってんだ」


『例のお姫様か?』


「姫じゃねえよ、お嬢ちゃん。

 クリスマスにページェントに連れてけって、ず~っと騒いでてさ」


『連れてってやりゃあいいじゃんよ』


「やだよ、寒ぃし、人多いし、めんどくせえもん。

 役満だぞ」


『点数の低そうな役満だな。

 日頃世話になってんなら、それぐらい付き合ってやれよ』


痛いところを突かれる。

言い返せずにいると。


『何も現金100万よこせって言ってるんじゃないし。

 安いもんじゃねえか』


「極端すぎんだろ」


クスッと笑ってしまった。

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