第72話

「私とじゃなくて、他の奴と行きゃあいいじゃねえか!

 私の飲み友に話しとくから、連れてってもらえって!」


「嫌だ、だったら1人で行く!」


「1人で行きゃあいいじゃねえか!」


「みんながキャッキャウフフしてる中、1人で自撮りしたり景色を撮ったりしてたら完璧浮くじゃん!」


「浮かないよう、漬物石でも付けときゃ大丈夫だろ」


「そういう事じゃないってば!」


ただ電球がピカピカ光ってるだけじゃんか。

そんなん見るなら、夜景でも眺めてる方がよっぽど有意義だと思う私がおかしいのか?


「森本さん暇人でしょ?

 付き合ってよ」


「おいこら、私は暇人じゃねえよ。

 資料を見たり、調べものをしたり、デザインを考えたり、ゲームしたり、寝たり、ゲームしたりで超多忙なんだよ。

 お子さまとは違うんだ」


「途中から堕落的な要素しかないじゃん!

 何でそんなに嫌がるの!?」


「まずめんどい。

 次に寒い。

 人混みうぜえ。

 カップル滅べ。

 最後にめんどい、以上だ」


「くっ、真ん中3つは納得出来なくないところが悔しい…。

 で、でも、行ったら楽しいかもじゃん!」


彼女の勢いが、ちょっと落ちてきた。

あとは畳み掛けるだけだな。


「だ~から、私じゃない奴と行けって。

 そしたら、思う存分楽しめるし、映え~な写真もいっぱい撮り放題だぞ。

 まさに一石二鳥じゃんか」


「森本さんと一緒でも楽しいもん!

 そんなにあたしと行きたくないの!?」


「んな事言ってねえだろ!?」


「もういいっ、解った!解りました!」


彼女は急に体を勢いよく離す。


「森本さんが一緒に行くって言ってくれるまで、ここでひたすら『ジングルベル』のサビの『ジングルベ~ルジングルベ~ル』の部分だけを、ひたすら歌いながら踊る!」


「地味にメンタル抉りそうな事すんのはやめなされや!

 つか、子供でもそんな狂気染みた事考えねえよ!

 もういいから、さっさとリビングに行って、せんべい食いながら、YouTubeでトムとジェリーでも観てろよ」


「ジングルベ~ルジングルベ~ル」


「唐突に始めやがった!

 もう知らんっ、好きにしろ!」


振り返ってみると、踊ると言っていた彼女だが、何故か盆踊りのような動きをしている。

気になるが、気にしたら負けだ。

体を元の向きに戻し、作業を再開する事にした。

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