第71話

そんな彼女が先程部屋にやってきた。

昼飯はさっき食べたし、何の用だろうか。


「どしたん?」


「仕事の進み具合を聞きにきたの。

 どんな感じ?」


「ん~、まあこのペースなら、もうちょいで終わるんじゃないかな。

 あと3日か4日くらい?」


私の言葉を聞いた彼女は、何故かにっこりと微笑む。


「今言った事に、微笑む要素があったかね?」


「あったあった、大いにありましたとも」


何だろう。

何かあるのだろうが、話の流れから先行きが見えない。

首を傾げていると。


「じゃあ、クリスマスまでには確実に終わるって事だよね?」


…何か嫌な予感がする。

頷くでもなく、返事をするでもなく、黙って彼女の出方を見守る。


「クリスマスまでには確実に終わるって事だよね?」


何で2回も聞いてくるんだよ。

返答次第では、ハズレくじを引く事になるのか?


「体調を崩さず、ペースが落ちなければ、な」


「体調面はあたしが管理してるから大丈夫だもんね」


それは一理あるわな。

心の中で納得。

無言のまま、更に相手の様子を見る。


「ちなみにだけど、森本さんのクリスマスのご予定は?」


「一日中温かいお部屋でごろごろしながら過ごすな」


「彼氏とデー…」


「彼氏はいないしデートの予定もないわい。

 てか、何なんだよ。

 私は早く仕事に戻りてえの。

 早く用件を仰りやがれ」


このままでは埒が明かない。

こちらから切り込みを入れてみる。

と、思惑通りになったという表情を浮かべた彼女を見て、きっと自分は地雷を盛大に踏んづけた事に気付く。



「あのね、クリスマスにあたしと一緒に過ごして」


「嫌だ、はい終了。

 お疲れ様でした」


彼女の方を向いていたが、背を向けて作業の再開に取り掛かろうとした。


「い~や~だぁ~っ、話聞いてよ~!」


後ろから彼女が抱き付いてきた。


「光のページェント行~き~た~い~~っ!」


光のページェントとは、毎年12月から1月まで定禅寺通でやっている、イルミネーションの事だ。

並木道にイルミネーションが施され、カップルやら家族連れ、若い子達がやって来る。

おまけに自分のヤン車や、高級車、カスタムした車を見せつけにくる輩が溢れ、なかなかどうしてカオスなのだ。


「嫌だよ、このくっそ寒い中、何でわざわざ電球見に行かなきゃならねえんだよ!」


「夢も何もない事言わないでよ!

 テレビでやってたの見たの!

 行きたい行きたい!

 やってる場所調べたら、ここからもそんなに遠くないから歩いても行けるじゃん!」


畜生、今ばかりはテレビに怨み節をぶつけてえ。

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