第64話

駐車場に車を停めた。


やって来たのは、『かわまちてらす閖上』

震災の後に出来た、いろんなお店が並ぶ場所だ。

景色も良く、空も広く見渡せる。

テレビで見かけた事はあったが、来るのは初めてだった。


「折角来たんだし、美味いもん食おう。

 私は魚が食いたい」


「あ、あたしそこまでお金ないよ」


「金は気にしないでいい」


良さげな店を選び、入店した。

窓際の席に案内され、景色を眺めながら食事を楽しめそうだ。


「好きなもん頼みな」


「で、でも…」


「私が誘ったんだし、素直に甘えりゃあいい。

 金の心配はない」


「…じゃあ、これ」


「そっちより、こっちの方が美味そうじゃん。

 こっち頼んでみ」


「うん」


やや強引だったかもだが、こうでもしなきゃ、彼女はずっと遠慮し続けるだろう。


頼んだ料理が運ばれてくると、彼女は途端にニコニコ顔になる。


「美味しそ~っ!」


「刺身、もりもりで良かったじゃん」


「森本さんが頼んだのも美味しそう!」


「欲しけりゃ一口あげるって。

 いただきます」


「いただきます!」


彼女は笑みを浮かべながら、刺身を口に運び、頬張ると更なる笑みを浮かべた。

美味そうに幸せそうに食べている姿を見ていると、こちらも食欲が増す。


「ほんっと、美味そうに食うよな」


「だって美味しいもん。

 美味しいものを食べたら、ニコニコになるよ」


「私はならん」


「素直じゃないなあ」


けらけらと楽しそうに笑う。

元気なようで何よりだ。


「ご飯食べたらどうするの?」


「この辺ぷらぷらしてみっか」


食事を終え、店の外に出た。

平日だったが、人が多かった。

子連れやら、カップルやらがいて賑やかだ。


「人、結構多いね」


「天気もいいからじゃん?」


土手は舗装され、綺麗な歩道がある。

歩きながら、景色を見たり、風を感じたり。

のんびりとした時間が過ぎていく。


「騒がしくなくて、のんびり出来て、いいところだね。

 後であそこのジェラート食べたいな」


「今飯食ったばっかじゃんか」


「デザートは別腹ですのよ」


「左様ですか」


並んで歩いていたが、私の方が歩幅が広い為、彼女は少し遅れる。

歩幅を狭めて歩くようにすると。


「森本さんは優しいなあ」


歩幅を狭めた事に気付いた彼女は、にこやかにそう言った。

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