第63話

「うはあ~~っ、お出掛け楽し~~っ!!」



車内に彼女の声が響いた。

久々に彼女のうるせえ…いや、大きな声を聞いた。

パワーウインドウを全開にしていても、無情なくらいに耳が痛え。


なんやかんやで何とか仕事を終え、まる1日寝まくり、たんまり飯を食らい、体調を整えた。

体がバッキバキだったけど、整体に行ってリフレッシュ。

漸く自分も落ち着いたから、先日彼女に話した、お出掛けを本日する事にした。


天気は気持ちいいくらいの晴天。

空はまっさらな青が広がっている。


まだまだ暑いが、真夏のそれではない。

車内はエアコンで涼しい。



こんな風に出掛けるのは、いつぶりだろう。

出掛ける予定がないから、遠出なんてもっての他で。


平日という事もあり、道路も空いている。

車は順調に走っていく。

賑やかだった景色も、少しずつ変わっていく。

街並みはのどかになっていく。


「森本さん、今日は何処に連れてってくれるの?」


「そうだなあ、名取かな」


「名取って何があるの?」


「…でっけえジャスコ…ああ、今はイオンか」


「ジャスコって何?」


「縄文人が使ってたスーパー」


返事がなかったから、ちらりと彼女を見てみると、首を傾げて何かを考えていた。

クスッと笑ってしまった。


「まあ、そんな考えるようなもんじゃないさ」


私の言葉に、彼女はまだ考えていたけど、頷いて見せた。


「あ~でも、イオンじゃ大したもんないか。

 閖上の方でも行くか」


「閖上?」


「海の近くにある場所。

 飯屋もあるし、景色もいいぞ」


「やった、海ぃいい!!」


海という言葉を聞いて、彼女のテンションがワンランク上がった。


東部道路を南下して行くと。


「森本さん、馬!」


「私は馬じゃねえぞ」


「違うよ、馬がいる!」


「あ~、馬術場だよ。

 競馬で頑張ったお馬さん達が、ここで余生を過ごしつつ、乗馬をやったりしてるんだ」


「凄いね凄いね!

 行ってみたい!」


「今度な」


引退した馬達が沢山いる、というのは前に誰かから聞いた事がある。

大きな動物と直接触れ合える、貴重な場所だ。


「もうちょいしたら、目的地に着くぞ。

 何食うかね」


「地元のもの食べたいな」


「じゃあ、やっぱ魚だな。

 海鮮丼とか、刺身定食でも食えばいい」


「お魚~っ!!」


まるで幼い子供のようにはしゃぐ彼女。

騒がしさは相変わらずだが、元気なのはいい事だ(まじでうるせえけど)


橋を超えたら、もう少しで到着だ。

少しだけ車のスピードを速めて急いだ。

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