第61話

限界突破の徹夜は、いつぶりだろうか。


体によろしくないと解っていながらも、彼女に買ってきてもらったエナジードリンクを飲みながら、仕事に精を出す。

肩も首もバキバキで、今すぐにでも整体に行きたいところだが、残念ながらそれは叶わぬ夢だ。


今回は液タブを使っての作業だから、目にもくる。

目薬をさしてみるが、あまり効果がないのは経験済みだ。


日付が変わってから、数時間が経つ。

季節は秋という事もあってか、開けっ放しのカーテンの向こうに広がる空は真っ暗だ。

夏よりも、黒さが増しているんじゃないか。

そんな事を思いながら、伸びを1つ。


この分なら、何とか間に合うだろう。

久々の地獄を見ているが、たまにだったら…いや、たまにでも嫌だな。


煙草でも吸おうかと、椅子から立ち上がろうとした時、部屋のドアをノックする音が。

立ち上がり、ドアを開けると彼女が待っていた。


「どしたん?」


「いや、その、無理してるんじゃないかなあって思って…」


どうやら心配をしてくれてたようだ。


「無理はしてるけど、過度な無理じゃないから大丈夫」


「それって結局、無理してるって事じゃない」


苦笑いをされてしまう。


「まあでも、仕事だし何とかしなきゃだからさ。

 てか、寝ないで大丈夫なん?」


「寝ようと思ったんだけど、なかなか寝付けなくて。

 ココアでも飲もうと思ったんだけど、一緒にどうかなって」


「ちょっと休憩しようと思ってたから、ご一緒するよ」


2人で台所に行き、私は煙草を、彼女はマグカップを2つ用意し、冷蔵庫から牛乳を取り出し、棚からココアを取り出した。

程なくして、出来上がったココアが入ったマグカップを、彼女から受け取る。


ココアなんて、久々に飲んだ。

(専らブラックコーヒーが専門だ)

ほんのり広がる甘さが、身体中に染み渡る。


「眠れない時は、よくココアを飲んでたんだ」


隣で飲んでいた彼女が、不意に呟いた。


「本当はもう少し甘い方が好きなんだけど、太っちゃうから我慢なの」


そう言って、ふっと笑った。


「もしかして、甘すぎだった?」


「んな事ないよ。

 ほれ、立ったままじゃあれだから、ソファーに座ろう」


私が促すと、彼女は頷いてそちらに向かい、私も煙草を吸い終わってからソファーに向かった。

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