第60話

なんてこった。

やっちまった。

久々にやらかしてもうた。

鬼に文句を言われたかないから、キチンとこなしてたのに。


私がフリーズしていると。


「あの、森本さん、大丈夫?」


彼女の声で我に返る。

心配してるし、かつ不安そうな顔をしながら、彼女が私を見ていた。


「あ~~、ま~~…うん、大丈夫」


彼女の不安が濃くなったのか、顔色が少し悪くなったようにとれた。


「その、もっと早くに話してくれれば良かったのに」


消沈した声。


「いや、これは私の問題だから」


最近ちょっと弛んでたもんな。

ちゃんと気持ちを引き締めねば。


「そんなに大変だったのに、あたし甘えっぱなしで…ごめんなさい」


深々と頭を下げられてしまった。


「いや、私はお嬢ちゃんに家事任せっぱなしだし…おあいこだろ?」


私の言葉に、彼女はゆっくりと体勢を戻す。


「けど、度合いが違うよ。

 あたし、やっぱりすぐに働くね」



ん?



「森本さんにおんぶに抱っこのままじゃ、絶対駄目だもん。

 すぐに纏まったお金は用意出来ないかもだけど、少しでも足しになれば…」



んんん?



「…お嬢ちゃんや、気分を害さないでいただきたいんだが、何の話をしてるんだい?」


今度はきょとんとした表情になる彼女。




「え?借金の話でしょ?」




その一言で時間が僅かに止まった。


彼女はきょとんとしたままだし、私もきょとんとしてしまった。

2人してきょとんとした顔で、互いを見つめ合う。

端から見たら、何とも滑稽な光景だろう。




「ぶっふぉ!!」




元気よく吹き出したのは私だ。


「借金って何よ、借金って!?」


笑いすぎて腹が痛い。

彼女は更に目を大きくする。


「え?今の電話、借金取りからの電話でしょ?」


笑いは更に倍増する。

笑いすぎて、涙まで出てきた。


「ち、ちが、って。

 私の、仕事の、たんとぅ…ぶへっ」


笑いすぎて片言になってまったが、どうやら彼女は言葉を理解してくれたようで、一瞬で真っ赤な林檎のように頬を赤く染めた。


「しゃ、借金取りじゃないの!?

 すんごく怖かったじゃん!?」


「あんなん、全然、平常運転、だよ。

 あ~、笑いすぎてシックスパックだわ」


笑ってる場合じゃないが、笑ったら気分も頭もすっきりした。

仕事はとりあえず、徹夜すれば何とかなるだろう。

気持ちを新たに、作業に取り掛かれそうだ。


「ありがとう、お嬢ちゃん。

 お嬢ちゃんのお陰で、リフレッシュ出来たわ。

 昼飯出来たんしょ?

 飯、食おうぜ」


まだ痛い腹を擦りながら、椅子から立ち上がり、わたわたしている彼女を連れて部屋を出たのだった。

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