第59話

トラブルがあったものの、何とか仕事は納期ギリギリに終える事が出来た。

納期の日を勘違いしていて、まだ余裕があると思い、のんびりペースで仕事をしてしまったのが不味かった。

気付いたのは、担当からの電話があったから。




好きな音楽を聞きながら、仕事をしていた時だった。

時刻は昼をちょっと過ぎた頃。

腹も減ってきたし、そろそろ昼飯だなと思っていた。


今日の昼飯は何だろう。

家事はすっかり彼女の担当になった。

もとい、彼女がやってくれるから、そのままお任せしてしまっているのだが。


もう9月も下旬だけど、まだ少し暑い。

冷やし中華食いたいな。


と、デスクの端に置いてあったスマホが震えた。

ディスプレイを覗くと、そこには『鬼 着信』の文字が。


鬼とは私の担当『神崎菜々』の事だ。

なかなかヘヴィーに仕事をぶっ込んでくるし、半端ない圧力をかけてくるし、私に対して遠慮のない奴。

歳は確か、鬼の方が数個上だったと記憶している。


電話に出ようか、出まいか。

悩んでいる間も、スマホは一定のリズムを刻みながら、着信の存在を示している。


このまま無視をするのも1つの手段ではあるのだが、後々恐ろしいくらいに電話がかかってくるのだ。

どっちにせよ面倒くさい。

スマホに手を伸ばすと、ボタンをフリックし、そのままスピーカーモードにした。


「…………………もすもす」


『進捗は?』


「挨拶もなしにいきなりだな、このやろ~」


『進捗は?』


「無視ですか、このやろ~。

 納期までには終わるって」


『明日が納期だが、ちんたらしてて大丈夫なんか?』


「んあ?明日?

 明後日じゃろがい。

 煽るんじゃねえよ」


『進捗表、見てみろ』


「…………ちょい待って」


不安が過る。

仕事用のファイルから、進捗表を探しだし見てみると、そこには確かに明日が納期と記載されていた。


「…………………も、もすもす」


『おう、進捗表には何て書いてあった?』


「あ、明後日が納期と…」


『書いてねえよ!

 納期は伸ばせねえから、さっさと仕上げろ!』



ーこんこんー



振り返ると彼女が私のドアを開けたところだった。


「ちょ、おい、無慈悲すぎん!?」


『勘違いしてた森が悪いんだろ!』


(※鬼は私を森と呼ぶ)


「そこを何とかすんのがザキの仕事だろ!?」


(※私は鬼の事をザキと呼ぶ)


『アタシの仕事はお前に仕事を回したり、お客様にお前の宣伝をしたりする事で、お前のおバカを帳消しにする事じゃねえわ!

 明日には、耳揃えてきっちり納品しろよ!

 じゃあな、森本先生様!』


「ちょ、ちょちょちょ!!」



ーブチッー



無情にも通話は一方的に切られたのだった。

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