第58話

「たきなちゃんは、宮城に来てからどっか行った?」


姉さんは彼女に質問をする。


「いえ、まだです。

 仕事とかで、色々忙しくて」


「ち~ちゃん、家に引きこもってばっかいないで、たきなちゃんをどっかに連れてってあげなよ!」


不意に私に話がくる。


「解ってるって~」


「出不精なんだから、それを改善すべくお出掛けするべきだよ。

 健康になれるし、たきなちゃんは観光出来るし、一石二鳥じゃん」


「ちづに人の面倒とか見れるんか?

 いきなり他の人の面倒を見れる程、器用にも思えんが」


「おいピッピ、私だって面倒くらい見れるっての」


言われたい放題である。

そんなやり取りを、彼女はクスクス笑いながら見聞きしている。


「車あるんだから、どっか連れてってやれって。

 最近車も乗ってないって言ってたし、丁度いいじゃんか」


「たきなちゃんは、行ってみたいところとかないの?」


「あたしはこっちの事はよく解らないんで、何処に行きたいっていうのが浮かばないと言いますか…」


「観光場所で近いのって青葉城?

 あ、でも特に面白くないか。

 松島とか、塩釜とか?」


「山元町の方にある、道の駅面白かったよ」


「あ、道の駅巡りもいいよね。

 あたしも加美とか、大崎の道の駅に行きたいんだ」


姉さんが口を挟む。


「てか、気仙沼は遠いし、折角行くなら泊った方がいいし。

 南三陸のさんさん商店街も面白いよ。

 あ、女川のシーパルもいいな」


いろんな場所の名前が出るが、当の彼女はチンプンカンプン。

置いて行かれている気もする。


「解った解った、どっかには連れてくって。

 地元の話ばかりで、お嬢ちゃんが話についていけてないっちゃ」



※~ちゃは宮城弁



そんなこんなで、彼女を何処かへ連れて行く事になった。

仕事が一段落したら行く、という約束だ。


話が盛り上がれば、言わずとも酒も進んでいく。

何故か私の話(酔っ払った時の話や、店に来てる時の感じなど)ばかりされ、彼女にネタ提供をする形になっている。

必死に話を変えてみるも、一周回ってまた私の話になってしまう。


彼女は話を聞いては、腹を抱えて笑っていた。

それはそれは、楽しそうに。

今までこんなに笑っているとことを、見た事がなかった。

こんなに笑う子なんだと、また1つ彼女を知る。



話と笑いは尽きる事はなく、結局日付が変わるまで騒いでいた。

みんなで店を出たのだが、帰り間際に明夫さんもみんなも、彼女に『いつでもおいで』と言ってくれた。

彼女は嬉しそうに頷き、『これからお世話になります』と頭を下げたのだった。

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