第56話

「森本さんは、ここのお店によく来るの?」


「がっつり飯が食いたくて、がっつり酒飲みたい時に来るかな。

 安いし美味いし、煙草も吸えるから大事な店」


「そうなんだ。

 こっちに来てから、初めてチェーンじゃない居酒屋に来たよ。

 凄いね、満席だ」


「ここは予約しないと、入れない事が多いんよ。

 ピークの時間が過ぎれば入れるけど、魚が売り切れちゃうんだ。

 ここは魚メインの店なんだけど、頼めば何でも出てくるから。

 この前はラーメンやら、カレーやら出て来た。

 明夫さんの料理は美味いから、安心していっぱい食え」


「魚のお店なのにラーメンやカレー!?」


そりゃあ驚くよな。

私も初めて出された時、驚いたし。

まして、メニューにもないし。


(ちなみに私は、いつも『明夫定食』を頼んでいる。

これもメニューにはなく、常連限定なのだ)



「お待たせしました、お刺身の盛り合わせです」


ほのかちゃんが刺身が乗った、大きな皿を持ってきた。

置かれた皿を見て、彼女は再び驚く。


「す、凄い!

 こんなもりもりなお刺身、初めて見た!」


赤身、白身、貝類が、お皿いっぱいに盛られている。

彼女は目を輝かせながら、盛り合わせをスマホで撮影し始めた。


「こっちに来て、お刺身って初めて食べるから嬉しい!」


「そら良かった。

 全部食っていいから」


「1人で全部は食べれないよ~」


(この言葉が後に覆される事になるのを、彼女はまだ知らない)


箸で白身を取り、醬油を付けて口に運ぶと、彼女の表情がとろけた。



「お~いし~い!!!!」



大きな声が出た彼女は、そのまま箸を進める。

口に運んで頬張ってを繰り返す。


「こんなに美味しいお魚、初めて食べた!

 臭みなんて全然なくて、プリプリで美味しい!」


宮城は魚も美味しい。

米も野菜も、水も肉も美味いのだ。

それが当たり前だから、それに慣れてしまっているのから、こういう反応はなかなか新鮮だ。



それからいろんな料理が運ばれてくる。

手作りのクラムチャウダーとポテトサラダ、手作りのおいなりさんに、焼いたほっけ、漬物。

彼女は楽しそうに、嬉しそうに写真を撮っては、美味しそうに頬張る。


元気がなさそうだったが、美味いもんを食って心が潤ったご様子。

彼女の食いっぷりの良さに、明夫さんもニコニコしながら見ていた。


食べられないと言っていた彼女だったけど、綺麗に食べきってしまった。

お皿の上には何も残っていない。

箸を置いた彼女は、パンっと音を鳴らして両の掌を合わせ『ご馳走様でした』


「お粗末様でした。

 腹はいっぱいになった?」


「はい、いっぱいになりました!

 久々にお腹いっぱいに食べました。

 本当にご馳走様です!」


言いながら、腹を摩る彼女を見て、ちょっと笑ってしまった。

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