第55話

折角出来た友達と、関りを切らせる事は悩んだが、今後の彼女に良い影響を与えるとは思えない。

駄目なものは、早めに駆除しておくに越した事はないと思う。

やや強引だったけど、きちんと説明したら彼女は解ってくれた。


そんな訳で、彼女はフリー状態。

言うても、フリーになってから、まだ数日しか経ってないが。


家の片付けをしてくれたり、ご飯を作ってくれたりしている(私が頼んだ訳ではない)

掃除や洗濯もしてくれて、こちらからすれば助かっている。


今回2人で飲みに行く。

共同生活を送ってから、初めての事だ。

彼女が喜んでいるのを見て、ちょっと安心した。


暫く歩くと、大きな通りにあるビルに着き、階段を上ると目的の店に着いた。

店のドアを開けるなり、いつもの賑やかな声が溢れてきた。


「いらっしゃいま…あ、ち~さん、お疲れ様です」


にこにこ笑顔で、バイトのほのかちゃんが顔を覗かせた。


「お疲れさん、今日も賑やかだね」


挨拶もそこそこに、席に案内された。

いつも私が座るカウンターの席に座り、その隣に彼女が座る。


カウンター席は、厨房にいる店長と話が出来る。

寿司屋のような透明な魚用のケースがあり、気になる魚を見て、頼む事も出来る。


「ち~、お疲れ」


ケースの向こうから、店長が顔を出す。


「明夫さん、お疲れ。

 この子が例の子」


「お~、可愛い子じゃん。

 お名前は?」


強面な明夫さんは、笑うととっても可愛い(強いて言えばくまさんみたいな)

彼女はその笑顔につられ、一緒に笑顔になる。


「海野たきなと申します。

 初めまして」


立ち上がり、深々と頭を下げる彼女に、明夫さんも頭を軽く下げる。


「俺は明夫、この店の店長な。

 ち~にイジメられたら、いつでも逃げておいで」


「私はイジメてないし、イジメる予定もないわい。

 生、2つちょ~だい」


「飯は?」


「この子に刺身食わせてあげて。

 私は後でいいからさ」


注文をし、程なくしてほのかちゃんが生を2つ持ってきてくれた。


「乾杯でもすっか。

 何に乾杯すっかね?」


「そこは『たきなちゃん、仙台にようこそ』だろ」


明夫さんに突っ込まれ、じゃあそれでと採用する。


ジョッキを合わせ、早速ビールを飲んでいく。


「ぶへえ、ビール最高」


「森本さん、おじさんみたい」


彼女はゆっくりとビールを飲む。


「おばさんと言ったら、ジョッキの角で頭をかち割ってやろうかと思ったけど、まあ許してやろう」


「ぼ、暴力反対!」


彼女を軽く笑い、鞄から煙草を取り出して吸い始めた。

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