第43話

煙草を吸い終わり、缶ビールを持って彼女がいる方に向かうと、彼女の対面に腰を下ろした。

プルトップを開けると、彼女も同じように開けた。


「…お疲れ」


「…お疲れ様」


缶を掲げて、訳もなく乾杯。

労いの言葉の1つでも言うべきだっただろうか。

けど、浮かばなかったから仕方ない。


そのまま無言が続く。

私から切り出した方がいいだろうか。

それとも、彼女が口を開くのを待つべきか。


壁に掛けてある時計の秒針の音を刻む音が、やけに大きく聞こえる。

いつものリビングの筈なのに、いつもと違う感じがするのは何故だろう。



「あの…」


急に彼女が声を発したから、そちらを見る。


「今日は…本当にごめんなさい」


私に頭を下げる彼女を、そのまま見守る。

ゆっくりと頭を上げた彼女と、視線が合う。


「助けに来てくれて、ありがとう。

 まさかあそこに、森本さんがいると思わなかったからびっくりしたけど。

 仕事の打ち合わせ?」


駅で彼女を見掛けたからついて行ったと、素直に言うとややこしくなりそうだったから、適当に誤魔化して返事をした。


「そうだったんだ。

 あたしは…その…」


困り顔。

言い出しにくい事は、100も承知だ。


「何処から話せばいい?」


「話せそうな事からでいいさ」


「話すと、長くなるよ?」


「構わんよ。

 明日は特に予定もないから、夜更かしは出来る」


仕事柄、夜更かしは慣れてるし。


「…あたしの話を聞いて、嫌いになったりしない?」


「それは話を聞いてみないと解らん。

 嫌いになるかもしれないし、ならんかもしれないし」


私の言葉を聞いた彼女は、肩を落とす。

意地悪な言い回しだっただろうか。

でも、言った事に間違いはない。


「そう、だよね…。

 でも、話さなきゃいけないと思うから話すね。

 途中で嫌になったら、遠慮なく言ってね」


「お嬢ちゃんも、無理してまで話さなくていいから。

 絶対的に聞き出したい訳ではないよ」


頷く彼女を見る。

彼女は持ったままだった缶ビールを少し飲み、息を吐く。



「軽い気持ちと、興味本位だったの」


聞き取りやすい声が、部屋に響いた。


「単純に、上手くやれると思ってた」


彼女はそっと目蓋を閉じると、静かに話し始めた。

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