第39話

女性スタッフに話した事を男性スタッフにも伝えると、やはり同じ反応だった。


「…解りました。

 ひとまず、お客様のお話を信じると致しましょう。

 もしお話が違いましたら、申し訳ありませんが、後で詳しいお話を聞く事に…」


「解ったから早くしてくれ!

 女の子の体が、傷物になるかもしれねえんだから!」


本当は大きな声で言いたかったが、僅かに残っていた理性がそれを制してくれた。

小声で叫ぶ。

スタッフ達も察してくれて、部屋のキーを持ってきてくれて、部屋まで案内してくれる事に。




間に合ってくれ。

無事でいてくれ。


どんな理由でこうなったのか、そんなんは後回しでいいから。

とにかく、無事でいてくれ。



あんなに不干渉だったのに、いきなりこんなに干渉的になるなんて。

普通に終わる筈だった1日が、普通に終われない1日になるなんて思ってもいなかった。


すんげえ腹減ってたけど、それもどっかに吹っ飛んでしまった。

むしろ今は、胃がキリキリと痛い。

仕事以外で、こんなに胃が痛む事なんて滅多にないのに。



エレベーターの中は、刺すような静寂が風のように漂っている。

ピリピリしていて、迂闊に触れたら傷がつきそうなくらいだ。

緊張感が具現化したような、そんな気がした。


エレベーターは目的の階を目指し、上がっていく。

それが酷く長く感じるし、じれったさでイラつきもする。

さっさと階についてくれ。


溜め息なのか、深呼吸なのかもよく解らない呼吸。

待て待て、これ以上自分を乱すな。

けど、落ち着こうにも、安心できるだけの材料が何もない。


ジャケットのポケットに入れていた携帯を取り出し、彼女から何か連絡がきてないか確認してみるもない。

代わりに、さっきお逢いした仕事の方から、お礼のメールが届いていただけだった。


不意にエレベーターが止まり、ドアが開いた。

先に女性スタッフはパネルの開のボタンを押して、男性スタッフは先に出てドアを押さえる。

エレベーターを降りると、男性スタッフが先を歩き、ついて行きながら静かな廊下を進んでいく。


男性スタッフの足が止まる。

どうやら、ここが彼女達がいる部屋らしい。


3人で顔を見合わせる。

私は首を縦に振ると、2人も同じように首を縦に振った。

それが合図で、男性スタッフは部屋のドアをノックした。

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