第37話

フロントの方を見ると、2人を見つけた。

彼女はスタッフに連れられ、何処かへ行った。

男性は別のスタッフに案内され、エレベーターに乗り込んだ。


ここは2階にレストランが入ってた。

そこに向かったのだろう。

最上階のバーは、会員でないと入れないと聞いた事がある。

バーに行かれないで良かった。


適当な椅子に腰掛け、彼女を待つ事に。

待っている間、彼女の事を考えてみる。


ほどほど接してこなかったから、彼女の何やらはあまり解らない。

性格は…素直だったり、素直じゃなかったり。

よく読めないところはある。


普段どんな感じなのかも知らない。

勤務地は聞いたが、勤務先は知らない。

食べ物も何が好きかも知らない。

趣味も知らない。


あれもこれも知らない。

知らない事ばかりだ。

関心がなかったと突っ込まれれば、ぐうの音も出ない。


じゃあ、どうして急に彼女を気にしたのか。

理由になるのか解らないけど、朝の会話のやり取りが、楽しかったから。


仕事や飲み屋で仲良くなった人と喋るのとは違う。

なんて言うのかな、気楽に話せたというか。

それがこう、うん、何か心地よかった。


彼女とちゃんと話したのって、いつが最後だったか。

確かに生活のリズムが合わないから、逢うタイミングはなかったんだけども。


人と仲良くなるのは、なかなかどうして苦手だ。

人が嫌いな訳じゃないし、交流を避けてる訳でもない。


トラウマが邪魔をする。

消し去る事が出来ない傷が疼く。

あれから時は流れているのに、癒える事はない。

これはきっと、体験しなきゃ解らない事…。




頭を振る。

今はそれどころじゃない。

それどころじゃないが、はてさて、これからどうしたもんか。


もう30分くらいは経った。

腹も減っているし、集中力が途切れがちに。


そんな時だった。

綺麗な格好をした彼女が、先程のスタッフに連れられて戻ってきた。


幼さが消された、大人の女性。

やや背が高く見えるのは、ヒールの高いハイヒールを履いてるからだろう。


咄嗟に立ち上がってしまった。

タイミング悪く、彼女がこちらを見た。




ヤバい、怒られる




焦りが胸を刺した。

双方見つめ合う形になったのだが、彼女の表情は怒りに染まる事はなく、泣きそうな顔になっていく。


スタッフに促され、エレベーターに乗り込んでいく彼女。

それを見ているだけの私。


乗り込んだ彼女と、もう1度目が合う。

と、彼女の口元が動いた。

声までは聞こえなかった。

扉は閉まった。



動きから考えてみる。

答えがあっているかは解らないが、多分きっとこんな感じか。









た す け て

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