第36話

探偵でもないんだから、尾行なんてした事はない。

バレるのは、時間の問題ではないかとも思う。

万が一に備え、バレた時の言い訳を考えておいた方がいいだろうか。


彼女は肩を抱かれながら歩いている。

どんな表情をしているかは解らない。


彼氏…なのか?

歳上がお好み?

いやでも、そんな風には見えんし…。


年頃の娘さんだし、彼氏やら男友達がいるのは不自然ではない。

だがしかし、一緒にいる人は彼氏やら男友達には見えない。


…あれか?今話題の『パパ活』とやらか?

だとしたら、なかなかグレーな話だが。


彼女が何をしてようと構わない。

毎日ビュッフェに行って、しこたま食いまくってようが、アニメイトやらのBLコーナーで物を漁っていようが、私には関係のない話だ。

けど、それらは危険を伴わない訳で。


もし彼女が自分を売ったりしてるのであれば、止めなくてはならんと思う。

思うけど、どの立場で物を言えばいいんだろ。


家族でも、友達でも、恋人でもない。

知人に毛の生えたようなくらいの立場だ。

そんな奴が、偉そうに説教をたれていいんだろうか。


尾行をしながら、あれこれ考える。

もし彼女が、本当に彼と付き合ってるなら話は別だ。

邪魔するなんて無粋だろう。


確認する手段がない。

が、なんとなくモヤッとする。

女の勘ってやつだろうか。



駅を出た2人は、タクシー乗り場の方に向かった。

見失うのは不味い。


顔を下の方に向けながら、小走りで2人の近くへ。

2人が乗り込んだのを見届けると、自分も別のタクシーに乗り込む。



「前のタクシーを追って下さい」



こんな台詞、まさか言う日がくると思わんかった。

流石の運転手さんもきょとんとしたが、すぐに追いかけてくれた。


「あの…お客さんは探偵かい?」


初老の運転手さんが、不思議そうに声をかけてきた。


「いや、ただのしがないイラストレーターです」


驚いたのだろう、返事がくるまで少々の時間を用いた。


「えっ、じゃあ一体…」


「ストーカーじゃないんで安心して下さい」


「…浮気現場を押さえるとか?」


「いや、そういうのでもないです。

 知り合いがいたから、ちょっと気になって追跡してると言いますか」


「はあ…」


明らかに不審がられているが、気にしない事にする。



タクシーは地元でも有名な、高級ホテルに到着した。

2人がホテルに入ったのを見届けてから、自分も支払いを済ませてタクシーを後にした。

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