第35話

1階に着き、一緒に駅を目指す。


「それより、今日はまともな格好なんだね」


いつもは部屋着。

部屋着というても、Tシャツに安いジャージ。

出掛ける時は、ジーパンにパーカーとか、簡単な服装ばかりだ。

ぶっちゃけ、着替えるのがめんどいんだよなあ。

服装もそこまでこだわりがない。


そんな私がカジュアルなスーツを着て、適当な化粧をし、パンプスを履いてるのだから、そりゃあまあ驚きもするだろう。


「私だって、こういう格好する時だってあるんよ」


「いつもきちんとした格好すればいいのに」


「出掛ける予定がない時は、ラフな格好でいいんんだよ」


「コンビニとかスーパーに行った時、知り合いに逢ったらどうするの?」


「こんにちはって挨拶する」


「もう、そういう事言ってるんじゃないし」


呆れながら言う彼女だったが、何処か楽しげだった。


一緒の電車に乗り、先に降りたのは彼女の方だった。


「じゃあ、行ってらっしゃい」


「ありがと。

 …その、仕事、頑張れよ」


また片言になってしまった。

そんな私をクスリと笑い、手を振ると行ってしまった。


電車のドアが閉まり、ゆっくりと走り出す。

ホームを過ぎ去る前、歩いていた彼女がこちらを見た。


先程とは違って、また悲しそうな笑みを浮かべて手を振っていた。


彼女は悲しそうな顔をするのは何故か。

理由は解らない。

もし尋ねたら、彼女は素直に答えてくれるだろうか。

…理由によりけりかもか。


こちらの生活に、上手く馴染めていないのだろうか。

それか他に、何か不安な事や心配な事があるのだろうか。

例えば家族の事とか。


あれこれ考えても、結局彼女から聞かなきゃ解らんのだが。

もとより、人の事はよく解らんが。


私がもうちょい人と関わりを持つ事が出来て、話もちゃんと聞いてあげれたら、円滑にいっただろうか。

ifの話ばかり浮かべても、何も解決しないけども。




今朝の事を思い出しながら、駅へ向かった。

仕事帰りであろう人達が、急ぎ足で駅を目指す。

そんな中、ゆったりとした足取りで歩く。


そうだ、飯はどうしよ。

めんどいから、コンビニで何か買って帰るかねえ。


何を買うか考えながら歩き、駅の近くにやって来た時だった。


彼女がいた。

男性と一緒に。

友達と呼ぶには、年上過ぎる人と。


彼女に見つかる前に、咄嗟に隠れた。

見つからないように彼女を見る。


見なかったふりをして、このまま帰るのが吉だろうか。

だがしかし、彼女の表情は青ざめていて。



気になった私は、

彼女達が通り過ぎたのを確認し、

バレないように後をつける事にした。

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