第34話

そもそもなのだが、私は人付き合いが少々苦手だ。

仲良くなるのが怖い、というのもある。


どんなに仲良くなっても、『失う』怖さがついてくる。

…もうあの日のように、人を『失い』たくはない。

あんな悲しみは、もう2度と味わいたくない。


人との関わりは、程々でいいと思っている。

厳かにする訳じゃない。

距離感ってやつ、大事でしょ?

踏み込み過ぎず、踏み込まれ過ぎず。



その後はお察しの通り、皆々様からありがた~いお言葉(お説教)を喰らった。

酒を飲み、飯を食いに来ただけだったのに。


観念した私は、彼女と少し仲良くする事を宣言したのだが。


『少しじゃなくて大いに仲良くしろ!』


と突っ込まれた。

渋々ちゃんと仲良くすると、前言撤回させられたのだった。




さて、話を元に戻す。

今日の朝、家を出るタイミングが一緒だったから、一緒に家を出たのだが。


「……。」


「……。」


会話がない。

エレベーターの中でも、会話がなく無言が続く。

聞こえてくるのは、エレベーターが動く音だけだ。

このままではまずい。


「えっと…」


私の声に、彼女はこちらを見た。


「今日、夜に、飯、一緒に行く、か?」


何故か片言になってしまったが、彼女に意図はきちんと伝わったようだ。

彼女は目を大きくして、嬉しそうな顔をしたのだが。


「…ごめんなさい、今日は仕事が終わったら、友達と遊びに行くんだ」


刹那、すぐに悲しそうな眼をしながら言った。


「そっか、じゃあしゃ~ないな」


期待はしていなかった。

こうなる事は解っていた。

声を掛ける事が出来ただけでも、進歩だろうと信じたい。


「誘ってくれてありがと。

 凄く、嬉しかった」


悲しそうな、それでいて寂しそうな笑顔を浮かべる彼女。

その瞳が、何を伝えようとしているのかは解らなかった。


「いや、いいんだ。

 また今度、な」


「うん…」


折角会話らしい会話が出来たのに、あっけなく終了してしまった。

これはこれで、なんとなく物悲しい。


「あ~、連絡先、交換してもよろし?」


「いきなりどうしたの?」


「いや、ほら、何かあった時の為に、というか」


言い訳くさかっただろうか。

でも、意図はあながち間違ってはいないし。


「解った、いいよ」


彼女は承諾してくれた。


「あたしも聞こうって思ってたんだけど、聞いていいのか解らなくて」


曇りがちだった彼女の表情が、少しだけ晴れた。

こうして若い姉ちゃんと、LINEを交換する事になった。


「…これでよし!」


もう少しだけ、嬉しそうな顔をする彼女。

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