第33話

「あ~、眠かった…」


歩きながら、大きな口を開けて欠伸を1つ。

今日は仕事の打ち合わせで、ちょっと外に出ていた。


飯はどうすっかな。

酒は昨日飲んじゃったし、飯も買ってない。

どっかに食べに行こうか。


彼女に声を掛けようか。

…そうだ、彼女は今日も夜はいない。

帰ってくるのは、大抵真夜中過ぎだ。


仕事で遅い時間まで残業もあるのだろうが、終電過ぎてまで仕事をさせるとは考えづらい。

まあ、めちゃくそなブラック企業だったら、話は別だろうが。


先日、たまに行く居酒屋で、店長(♂)に彼女の事を話してみた。

店長は目を丸くして、それはそれは驚いていた。


「とりあえず、どっからツッコミを入れたらいいのか解んねえよ」


至極真っ当な返答である。


「いやあ、まあ、なんつ~か、成り行きというか、勢いというか」


「成り行きでも、勢いでも、普通人を拾って一緒に住むなんて事するか?」


「する人間が、今目の前にいるっしょ?」


自身を指さしながら言う私に、彼は口を閉じた。


「いやあ、人生ってやつは何が起こるか解らんよね」


「確かにそうだけどさ。

 で、仲良くやってんの?」


「この3ヶ月、まともに話した事はないなあ」


「嘘だろ!?」


私達の会話を聞いていた、顔見知りの常連客が声をあげた。


「一緒に飯を食った事もないし、出掛けた事もないな。

 まあ、生活のリズムが合わんってのもあるけど。

 彼女は彼女で忙しそうだし」


「それにしたって、もうちょいコミュニケーションってやつを取れよ。

 こうほら、観光案内とか」


「どっか遊べるとことか、買い物って大体イオンで済むじゃん」


「元も子もない事言うなよ。

 てか、一緒に出掛ける事に意味がある訳で、場所云々じゃないって」


ふむ、そういうものか。


「話をしないにしても、LINEでメッセのやり取りするとかさ」


苦笑いを浮かべながら、店長がそう言ったが。


「彼女の連絡先、知らん。

 ので、LINEも知らん」


苦笑いは一瞬で消え去った。


「ほんとにただ一緒に住んでるだけじゃん!」


「だ~から、さっきからそう言ってるだろ。

 そもそも、仲良くしなきゃいけない理由もないって」


「淡白すぎるだろ!

 もう少し優しく接してやれって!

 見知らぬ土地に1人で来て、不安だって色々あるだろうに…。

 ち~は人付き合いを大切にしろ!」


余談だが、仲間内からは『ち~』やら『ち~ちゃん』と呼ばれている。

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