第21話

「ちょいちょい、出て行くのは勝手だけど、これからどうするんよ」


背を向けて靴を履く彼女に声を掛けてみる。

靴を履き終えた彼女は、こちらを見る事はせず、前を向いたままだ。


「…とりあえず、どっか安いカプセルホテルでも見つけて、地道に住めるところと仕事を探すよ」


「両方見つかるかもしれないし、片方は見つかっても、片方は見つからないかもしれない。

 まして、最悪両方見つからないかもしれないじゃん」


「そうだけど、やってみなきゃ解らないもん」


言いたい事も、気持ちも解らなくもない。

けど、やはりリスクが高すぎる。


「勢いでどうにかなる事もあれば、ならない事だってあるんよ。

 いくら何でも危ないからやめとけ」


「あたしは大丈夫だってば!

 今までも何とかなったし、これからも何とかなるって!」


「その自信はどっから来るんだよ。

 自棄になったって、いい方向にいく筈もない」


振り向いた彼女の瞳は、再び涙で濡れていた。

その瞳が何処か儚げで、綺麗に見えた。


「あたしは自分のやりたいように生きてくだけ。

 あたしの居場所を見つけて、これからは笑っていきたい。

 新しい場所で、新しいスタートをきるんだ…」


一粒の涙が、目から零れ落ちた。

ゆっくりと、頬を伝う。




1人で生きてくなんて、どんだけ大変な事か。

見知らぬ土地で、見知らぬ誰かと生活するなんて、想像も出来ない。

誰かの支えがなくては、人は倒れてしまうのに。


支えて、支えてもらって。

そうやって人は生きてくものだと思ってる。

奪うだけの人、傷付けるだけの人もいるけど…。




ーゼロから歩いて行くのは、本当に大変でー




彼女を見つめながら、過去の記憶がほんの少しだけ甦る。

忘れたくても忘れられない記憶。

…何で今、思い出したんだろう。


私は偉そうに、物知り顔で彼女にあれこれ言っているが、結局それは何の意味があるのだろう。

ただの他人の言葉なんて、その辺の雑誌の見出しよりも心に響かないと思う。


私は彼女にどうしてほしいのだろう。

自分の考えを押し付けたい訳ではない。


わざわざ私を訪ねてきた事に、どんな意味があるのだろう。

どんな気持ちで、ここまで来たのだろう。

いろんな疑問が、頭の中でぐるぐる回る。



どうして彼女は、私を頼ったのだろう。

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