第20話

「べ、別に同情してほしい訳じゃないってば!」


「自分で決めてこっちに来たのなら、自分で何とかするべきだろ」


「それは…そうだけど…」


「目標があるなら、それに向かっていける根性があるみたいだし、何とでもなるだろ」


「……。」


キツく言い過ぎだろうか。

まだまだ子供なのに。


俯いた彼女の前髪の下の瞳は、静かに潤んでいた。

泣かないように、涙を零さないように、必死に堪えている。


流石に言い過ぎた事を反省する。


「すまん、言い過ぎた」


彼女は無言のまま、首を左右に振った。

やがて、静かにすすり泣く声が聞こえてくる。


泣かせてしまった事、言い過ぎてしまった事への罪悪感。

自分よりも、遥かに年下の子に対して、言葉を投げつけすぎてしまった。


床に置きっぱなしだった、ティッシュの箱を取ると、1枚取って彼女に差し出す。

気付いた彼女が顔を上げると、頬も瞳も涙で濡れていた。

受け取った彼女は、涙を拭いてみるも、暫く涙は止まらなかった。



どうしたもんか。

彼女の話は、おそらく嘘はないだろう。

もし嘘をつくなら、もっと色をつけてもおかしくはない。


とりあえず、疑う気持ちは隣に置いておく事に。

さて、この子をどうするべきだろう。


預かってくれそうな友達はいないし、預け先もない。

祖母に任せるか?

いや、それはガチの最終手段にしておいた方がいいな。


うちに置くべきか?

仕事の邪魔をされないなら、それに越した事はないが。


1人もんだったのに、いきなりひとつ屋根の下で、見知らぬ人と同居するってのは、如何なものだろうか。

完全に信用した訳でもないし、自分のリスクも考えなくては。


見知らぬ土地に投げ出すのもな…。

あ~も~、どうしたらいいんだよ。

ググっても答えなんて出てこないし。


もうちょいしたら、新規の仕事に着手しなきゃいけないから、悠長にしていられる時間は僅かなのに。

なかなかどうして、頭が痛い案件だ。



「…いきなり来てごめんなさい。

 また森本さんに逢えただけでも嬉しかった。

 あたしは大丈夫。

 何とか出来るから。

 目標、とりあえずあるから、それに向かっていけばいいだけだし」


簡単に言うけれど、そう上手くいくなんて思えない。

現実は、いつだって苦いもんだ。


「コーヒー、ご馳走様でした。

 お邪魔してごめんなさい。

 あたし、行くね」


彼女は言い終わるとすぐに立ち上がり、バッグを持って玄関に行ってしまった。

次から次へと忙しい。

私は慌てて彼女を追い掛けて、玄関に向かう。

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