2日目/理由は様々

第16話

もう逢う事はないだろうと思っていた人物が、再び現れた。

街中で偶然ばったり逢ったとか、そういうのではなくて。

今目の前に現れたのだから、驚きは計り知れないものだ。


彼女は笑みを浮かべたまま、私の反応や言葉を待っていた。

彼女がどんな私を期待しているかは解らない。

が、期待通りの反応や発言をしなくてはいけない訳でもないで。


いきなりの出来事に、こめかみを押さえる。

そして、どんな言葉を言えばいいのかを、何とか考えてみた。


「…とりあえず、どっからツッコミを入れていいのかわかんねえ」


率直な言葉だった。

いや、まじでツッコミどころが多すぎて、手を付けられないというか。


「私がいきなり現れた事?

 この場所を解ってた事?

 また仙台に来た事?」


彼女は動じる事もなく、私が考えている事をするすると言った。


「仰る通りで。

 突っ立ってんのもあれだから、とりあえずソファに座ったら?」


言うと彼女は頷くと、ソファに座った。


「コーヒー飲むけど、飲む?」


「飲む」


台所に向かい、ケトルに水を入れてスイッチを入れた。

お湯が沸くまで煙草を吸って、気持ちや頭を落ち着かせる事にしてみる。


ちらりと彼女を見てみると、つけっぱなしだったテレビを観ていた。

地元の情報番組がやっていて、おすすめの店を紹介しているところだった。


煙草を吸い終わるとコーヒーを2つ用意して、リビングに戻り、彼女にカップを渡した。

美味しそうにコーヒーを飲む彼女を見てから、自分もコーヒーを飲む。

いつもより濃い目のブラックで。

カフェインの力で思考がもう少し働いてくれる事を期待する。


「改めてだけど、どうしてここに?」


彼女の前に座りながら、尋ねてみる。


「ん?家出て来たから」


危うく口に含んでいたコーヒーをぶちまけそうになったが、ぎりぎり吹き出すのを抑える事に成功する。


「いやいやいやいや、いきなりすぎんだろ。

 何で家出て来たんだよ。

 なんで私の家に来たんだよ」


「他に行くところがなかったから」


「友達とか、親戚の家とかあんだろ」


「友達は仕事やら彼氏との事でいっぱいだし、親戚付き合いはなかったから、あてもなくてさ」


「だからって、私の家に来る理由もないだろ!?」


うちに来る理由が解らない。

たった1回、僅かな時間を共にしただけの人間の家に再訪するか?

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