第15話

彼女と別れてから3ヶ月が経った頃だった。


それまでと何ら変わらない日々を送っていた。


仕事ばかりだけど、それ以外にする事もない。


色のない日々。


けど、それが当たり前の日々だ。



彼女の事も暫くは思い出したりしたが、少しずつ思い出す回数も減っていった。


そんなものだ。


脳内は毎日の出来事によって、常に上書きされていくのだから。






それは、ある日の事だった。


インターホンのベルが鳴る。


モニターを見てみる。


息を飲み込んだ。


口は閉まる事はなく、情けなく開いたままだった。


多分、すんげえ間抜けな顔をしながら、モニターに映る相手を見ていた。



エントランスにいた人物。


もう2度と逢う事はないと思っていた人物。


彼女が、レンズ越しにこちらを見ていた。



驚きながら、マイクのボタンを押した。




「はい…」



不安そうな顔をしていた彼女は、嬉々とした表情になった。


私は相変わらず、状況を飲み込めないまま立ち尽くしていた。



「以前お世話になった、海野たきなです」



大きな声ではなく、通常の声で彼女は言った。


呆気に取られたままの私は、返事が出来なかった。


気付くとエントランスのドアを開けるボタンを押していた。



程なくして、部屋のインターホンが鳴った。


こめかみを押さえながら、玄関に行くと、ドアを開けた。






部屋から顔を覗かせた私を見ると、

彼女は意味ありげに笑った。



これが今日の出来事。

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