第14話

「ほら、新幹線に乗れって」


まだ少し恥ずかしくて、ぶっきらぼうな言い方になってしまったが、彼女は静かに頷いた。

列の最後尾に並び、新幹線に乗り込むも、出入口で足を止めてこちらに体を向けた。


何かを言いたそうな顔をしているものの、何を言おうとしているかは解らない。

視線は合ったが、彼女は視線を下に向ける。


ホームに発車を告げるメロディーが流れる。

機械的にドアが閉まると、彼女はあっと口を開け、慌てて顔を上げた。

再び彼女と視線が合う。



ありがとう



口の動きは、そう言っているようにとらえられた。

私は軽く頭を下げた。


新幹線が動き出す。

彼女は悲しそうな顔をしながら、小さく手を振る。

私はジーパンのポケットに入れていた右手を取り出し、小さく手を挙げた。

それを見た彼女は、ふっと笑った。


スピードを上げた新幹線は、すぐにホームから去って行った。

それを見届けてから、私もホームを去る事にした。


このまま買い物でも行くか。

駅を出て、家の近所にあるスーパーへと向かう事に。


騒がしい一時だったな。

こんなに騒がしい事なんて、なかなかないよな。


僅かな時間を思い出してみる。

大声でギャンギャン騒がれたのは、耳が痛かったし、摘まみ出してやろうかと思ったが。


朝起きた時に、家に誰かがいるというの久しくて、違和感があったり。

いや、違和感と言ったら聞こえは悪いか。

悪い違和感ではなかったのは確かだ。



どうして彼女は、こっちに来たのだろう。

誰かに逢いに来たという感じではなかった。

傷心旅行?

まあ、考えたところで、本人に聞いてみない限り、答えに辿り着く事は出来ない。

確認する手段もないのだが。


買い物を済ませ、家に帰宅する。

さっきまでの騒がしさが嘘みたいに、部屋の中は静かだ。

これが当たり前なのに、何だか少し物悲しく感じた。


買ってきたものを冷蔵庫にしまうと、煙草と灰皿を持ってベランダに出てみる。

近くの公園で遊んでる、子供たちの楽しそうな声が聞こえてきた。


煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吸い込んで吐き出す。

彼女は今頃、どの辺りを走っているんだろう。

ちゃんと帰宅するんだろうか。

が、それはいらん心配というやつだ。

もう彼女と逢う事はないのだから。


煙草を吸い終わり、部屋に戻る。

少し早いが、風呂に入るとしよう。

昨夜は入り損ねてしまったし。




風呂を済ませ、

晩酌を済ませると、

珍しく早くにベッドに入り、眠りの世界へと落ちていったのだった。

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