第10話

「この辺の子じゃないよな?」


いきなりな質問だっただろうか。

思った頃には、口にしていたからもう遅い。


「…うん」


落ち着いた声で返ってきた。


「どっから来たん?

 …言いたくなければ、言わんでいい」


「…東京」


東京か。

新幹線で、大体1時間半くらいか。


「学生…ではないか」


「去年までは高校生だった。

 卒業して、まだ1年」


18か19か?

とりあえず、高校生でなくて良かった。

訴えられたら、きっとアウトだったかもしれん。


「華の東京から、仙台へ遥々ようこそ。

 関東人からしたら、こっちなんて田舎だろ」


「仙台駅、大宮…埼玉にある駅に似てた。

 思ってたより、田舎じゃなかった。

 服装と髪型はちょっと違うけど」


「田舎は田舎のファッションがあるからな。

 友達と旅行って感じでもなさそうだな。

 今流行の一人旅ってやつ?」


「……まあ、そういう事にしといて」


濁した。

聞かれたくない理由があるのだろうか。

深追いはしなかった。


「そっか。

 で、何時の新幹線にご乗車予定?」


「……。」


しばし待ってみたが、返答はなかった。


「他に行くあては…ないんだっけか。

 とりあえず、今すぐじゃなくていいから、どうすっか決めなされ」


急かす理由は特にない。

が、見ず知らずの他人の家に長居なんて、居心地もよろしくはないだろうと思う。


「…ない」


「ん?」


「その、帰るお金が…」


俯きながら、小さな声で彼女は言った。


「金無いの?

 残金いくら?」


「2000円くらい」


新幹線より安いバスを使っても、大体8000円くらいはかかる。


「じゃあ、どうすんよ。

 口座に残金もないん?」


彼女は顔を左右に振った。

はてさて、どうしたもんか。


「ヒッチハイクなんて無謀だし、歩いて帰れる筈もない。

 八方塞がりじゃん」


力なく頷く彼女を、コーヒーを飲みながら見る。

小さな体を更に小さくしながら、俯くばかりだ。


こんな状況になった事も、出くわした事もないから、頭を抱えてしまう。

彼女が知人や友人だったら、『しゃ~ね~なあ』と交通費を渡せたかもだが。


このまま彼女を外に出すのも気が引ける。

拾った手前、それは流石に無責任だよな。


嘘をついてるようにも思えんし、放っておいたら何をするかも解らない。

つまり、一か八かの賭けをする事になるか…。

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