第2話

会計を済ませ、店を出ると、先程の肌寒さが増していた。

夜も深くなってきたし、寒さが強くなるのも仕方がない。


早く温かい部屋に帰ろう。

信号が変わり、歩き出すと、先程の公園が見えてきた。


さっき見掛けた人は、まだいるのだろうか。

もしいたなら、警察に連絡をした方がいいんだろうか。


…携帯は家だった。

じゃあ、帰ってから連絡をすればいっか。


そんな事を考えながら歩いていると、出入口のところに近付いていた。

…あ、まだいた。

街灯はあるものの、薄暗いがはっきりと先程の人だと確認出来た。


両手で顔を覆っていた。

泣き声のような声も聞こえてきた。

すすり泣くような、そんな声。


…どうすっかな。

放っておいた方がいいんだろうか。

けど、いきなり声を掛けたら、こっちが不審者扱いされるのでは?


気にしなければ、それに越した事はないんだと思う。

だし、他人がどうこうなろうと、自分にはまるで関係ない。

薄情だと思われるかもしれないが、間違ってはいないと思う。


歩くペースをゆっくりにしながら、女性の後ろ姿を見る。

幸いな事か、彼方はこちらに気付いていない様子だった。


どうすっかな。

どうすべきなんだろ。


仕事の後の、いまいち回らない頭で考えてみるも、ピンとくる考えに辿り着く事は出来ない。

些かの歯痒さにも似た気持ちが、心を少しだけ焦らせる。


いよいよ出入口に着いた。

さあて、どうしたもんか。


厄介ごとに首を突っ込めば、ろくな事がないぞと、頭の奥の方で警報が鳴っている。

が、気になるのも、あながち嘘ではない。

あれだ、所謂『興味本位』というやつで。





…ヤバかったら、すぐに逃げればいっか。





我ながら安易な考えだと、鼻で笑ってしまった。

そんな簡単な事でもないだろうに。


意を決して、公園内へ足を踏み入れる事にする。

私の足音に気付いたのか、その女性は瞬時に顔を上げた。

明らかに警戒しているのが解る。


そして、足音がする方へ顔を向けた女性と目が合った。

ベンチの近くにある公園灯が、彼女の顔を照らした。


近付いていくと、女性は体を強張らせる。

が、慌ててバックから携帯を取り出すと、再び私と視線を合わせた。

恐怖からか、口唇が僅かに震えていた。


まあ、普通に怖いよな。

警戒されんのも無理はない。

自分がこの人の立場だったら、きっと同じような事をした筈だ。

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